サッカー選手を目指す上で親の経済力はどのくらい影響するのか

 今回は頂いた質問から、自分なりの回答をさせていただきたいと思います。

頂いた質問

 プロになるためには本人の努力と才能も重要だが、親の経済力も重要という話を聞きました。富士石さんはこの「親の経済力の重要性」についてどうお考えでしょうか。

はじめに

 確かに考えさせられる質問ですが、前提として私は現在指導や育成に携わっていないので、あくまで自分の知っている・感じている範囲内の話とさせてください。

プロになれるかどうかのラインに対する経済力の影響

 まず経済力によりプロになれる、なれないの差が出るのかについて考えてみます。結論から言うと、高校生年代までかつサッカーだけを考えるのであれば、そこに経済力依存の境界線は無いと私は考えています。プロになる最短ルートはJの下部組織に所属することですが、U12もU15もU18も一般的なクラブチームや部活動と比較して極端な経済力を要求されるようなことはありません。そもそもサッカーにかかるお金とは何でしょう。

サッカーで必要なお金

ここでざっくりとサッカーでの出費が何によるものかまとめてみます。
①用具
 ユニフォームやジャージ、練習着、ソックス、スパイク、トレーニングシューズ、ランニングシューズ、室内履き等の衣類関係、それから練習で使用するボールやゴール、コーン等の練習用具です。消耗品ですし、特に成長期の子供は消耗だけでなく成長による買い替えを強いられることもあります。
②場所
 グラウンド等の施設利用費です。学校であれば体育館、クラブチームならクラブハウスやトレーニングルームが含まれることもあります。トレーニングルームは高校・大学に併設されていることも多いですね。
③指導者
 コーチや監督に支払う人件費です。
④遠征費
 試合や練習会へ赴く際の参加費や交通費です。部活動では基本的に公共交通機関ですが、クラブチームではバスを保有していることもあります。

「プロになれるか」の境界線はここには無い

 上記の通り、「クラブチームだから特別お金がかかる」要素は特に無いですよね。
勿論クオリティの差はあります。Jクラブの下部組織なら①はプロと同レベルの服を用意されますし、②は天然芝のグラウンドがメイン、③は上級ライセンスの指導者や元プロが務め、④もクラブ保有のバスを使用出来ます。ですがJクラブの下部組織ではそれこそトップチームと用具や施設を共有出来ますし、下部組織が優秀であればトップチームへの好影響も見込める為、チームから補助も出ます。結局のところ選手や選手家族への負担は部活動とそれ程差がありません。強いて言えば本当にトップクラスになると海外遠征等が絡んで多少出費が嵩むでしょうが、それはほんの一握りの話なのでここで対象とする必要は無いでしょう。

経済力で差がつくのはサッカーを続けられるかどうか

 以上のことから、高校生年代までかつサッカーだけを考えるのであればプロになれるかどうかに経済力の境界線はほぼ無いと言えるでしょう。もし境界線を引くのであれば、サッカーを出来るかどうか、上記①~④を全て払えるか、払えないかのラインになるかと思います。

「高校生年代まで」という前提条件を外すと

 先程の話は2つの条件を前提としていました。まず1つが「高校生年代まで」ということです。この前提条件を外す、つまり大学生はどうかといえば流石に経済力による差は出てしまうかと思います。皆さんご存知の通り大学は膨大な学費がかかります。国公立なら学費は抑えられますがプロを目指せる国公立大学はかなり限られますし、私大の半分程度とはいえ決して軽い負担ではありません。また、私自身経験があることですが、大学で部活を続けるのは体力と時間の使い方に関して選手本人にかなりの負荷がかかります。従ってアルバイト等をしながらトップレベルを維持するのはほぼ不可能と言え、先程記載したサッカー関連の出費も含め全て親に頼るとなればかなりの出費を覚悟しなければならないでしょう。一応奨学金に頼るという方法もありますが、奨学金を借りてプロを目指すような負荷で部活動に専念してもしプロになれなかったら…と考えると茨の道になることは想像に難くありません。

「サッカーだけを考えるのであれば」という前提条件を外すと

 先程書いた通りサッカーの育成のみで言えばプロになるかどうかに経済力の直接的な影響は限定的ですが、子供の身体的な成長(栄養面)や学力についてはどうしても経済力の差が出ます。特に学力はそれが顕著で、統計データにも学力と親の経済力に相関性があることは出ていますね。サッカーに限らず継続的にスポーツに打ち込むことが出来る選手は学力も一定水準であることが多く、それは集中力や言語化、想像力、理解力等、学力とは切っても切れない多くの要素がスポーツでは必要となるからです。 考えること、答えを目指すことが当たり前になっている、コーチの話をより深く理解し、論理的に説明や質問が出来る、相手の考えを想像し自分の行動を考える。これらは全て学力とスポーツで共通する力だと思います。そう考えると小さい頃から多くの本に触れられたり、教材や塾等にお金を使える家庭の方がスポーツにおいても有利になるということは大いにあるでしょう。おそらく質問者様の質問意図もここに一番欲しい答えがあるのではないでしょうか。

目を向けるべきは「サッカーだけでは駄目」ということ

 結論として、「サッカーだけを考えれば高校生年代までは親の経済力によるプロになれるかどうかの境界線は無い」ということになるでしょうか。ですが、この問題の本質がそこに無いことはここまで読んでいただいた皆さんならご理解頂いているかと思います。結局のところ良いサッカー選手を育成する為には子供が心身共に健やかに育ち、好きなことに不安や不満無く取り組め、不自由無く勉強できる環境が必要ということです。それは単にサッカーの話ではなく、親や学校、地域や国として取り組むべきことであって「サッカー」だけを見る狭い視野で出来ることではありません。近年は以前にも増してプロサッカーチームも単にサッカーが上手い人の集団ではなくなり、地域や子供達への影響を考えた取り組みが目立つようになっています。この積み重ねが将来、いや今日より明日、明日より明後日と子供達を取り巻く環境の改善に繋がることを祈ると共に、私も1人の大人として自覚を持って協力していきたいと思います。

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