練習動画から考えるJ1リーグ2023シーズンプレビュー

 いよいよ本日開幕するJリーグ。順位予想等の記事も多々上がって盛り上がっていますね。私は今オフ新しい試みとして練習動画の内容に関する記事「練習を読み解く」シリーズを21本書くことが出来ました。そこで今回はこれまで見てきた練習動画や記事の内容を元に自分なりのシーズンプレビューを書いてみようと思います。ただ練習動画を見れていない、記事にできていないチームについては今回除外します。

ヴィッセル神戸

イニエスタを活かす遅攻主体のスタイルが中心

 練習動画で目立ったのは明らかにロンドでした。フリーマンを見つけ、ボールを早く正確に動かすという部分にかなりフォーカスしているように見えました。イニエスタがあまりに別格の存在であるが故に練習動画をイニエスタ中心に編集した結果かもしれませんが、イニエスタがより上手く見える練習が中心だったということは、イニエスタが活きる戦術を組んでいるのではないかと考えます。

ポケットを使うのは誰?

 2月15日の記事で書いた6vs6のシュートゲームが気になります。4人のフリーマンをゴール横に置いたゲームですね。練習におけるフリーマンの置き場所は他のチームを見ていても攻撃のポイントとなっていることが多く、神戸もポケットへの侵入を意識して攻撃を構築することが予想されます。しかしこの練習だけでは実戦で誰がそこを使うのかが分かりません。
4-3-3を前提にするのであれば、WGか、IHか、SBか。イニエスタをここに走らせる意味は薄いように感じるので、イニエスタがIHの片方に入るのであればもう1人は運動量豊富な山口蛍か齊藤未月が入ると思われるので、イニエスタのサイドはWGかSB、逆はIHがポケットに飛び込む左右非対称での攻撃ということになるでしょうか。
右はスピードと正確なクロスを併せ持つ飯野がSBに入ると予想され、RWには中央で待つことも出来る武藤がいます。イニエスタを起点に右から武藤が絞ってIHがポケットに飛び込み浮いた大外から飯野がクロス、大迫が合わせる…という形を作れると面白いでしょうね。
そこまで形を定めないにしても、左で狭く、右を広く使う攻撃は今季の神戸が得意とする攻撃パターンになるかなと思います。

増えた速攻の選択肢

 ここまで書いてきた通りあくまで主体は遅攻と思われますが、今季の神戸は速攻の軸となれる人材を補強しています。それがパトリッキと未月です。パトリッキは縦に抜けるスピードが武器のWG、未月はトランジションで国内屈指の力を持つMFです。これは昨季と比較して明らかに強化された部分で、チームとして彼らを活かす戦術を遅攻主体に次ぐ選択肢として組み込めれば、終盤引いて守りつつ一発のカウンターを狙ったり、押し込まれてイニエスタやサンペールが活きない展開でも柔軟に対応できる、非常に強いセカンドプランを持つチームになるのではないかと思います。

不安は守備強度

 神戸の不安を挙げるとすればまず守備強度でしょう。同チーム内での練習なので攻撃の方が上手いからという見方も出来ますが、他のチームの練習と比較して守備強度で劣るように見えました。これは本来ハイプレスで活きる4-3-3では特に大きな不安要素で、同じく4-3-3を採用する上位陣との試合ではプレス強度の差で押し込まれてしまうことが不安視されます。
昨季のようにイニエスタをトップ下に入れて4-4-1-1ブロックで引いて守る選択肢もありますが、陣容そのものは4-3-3に適正がありますし、練習を見ても出来ればハイプレスでの即時奪回をやりたいのではないかと思います。キャンプでどこまでプレスを仕込めたか、あるいはハイプレス以外の選択肢を増やして備えているのか。開幕直後の守備強度は要注目ですね。

昨季より確実に強いチーム

 雑な結論ですが、昨季より明らかに強いチームになるなと感じています。陣容に対して昨季が酷すぎたというのもありますが、今季はACLもW杯も無いので主力の稼働率は昨季より上がるでしょうし、速攻主体のセカンドプランをしっかり仕込めていれば主力の負担軽減も難しくないでしょう。
そして今季はおそらくイニエスタのJラストシーズン。チームとしてタイトルの獲得は絶対の目標でしょうし、もしかしたら思い切ったターンオーバーで目標タイトルを絞るかもしれません。従って序盤で走ればリーグに全力、逆ならトーナメントに全力でメンバーを大幅に入れ替える可能性もありそうです。特に今季は降格チームが1つだけですし、神戸の選手層であれば余程酷い状況にならなければトーナメントに全力を注いでも最下位にはならないだろうという目算も十分に理解できますしね。

湘南ベルマーレ

ボールを捨てないチームに、ビルドアップへのチャレンジ

 練習動画を見てまず感じたのが、明らかに後方でのパスワークを意識しているということでした。昨季までの湘南はDFラインでのパスワークに難があり、ミスからの失点も目立ちました。また、奪いきれそうなシーンでクリアに逃げて相手の攻撃が継続してしまうことも多いという課題も抱えていました。
山口監督もそこに課題を感じていたのか、キャンプでは明らかに後方での繋ぎやビルドアップを意図した練習メニューを組んでいます。2月6日の記事で取り上げた6ゴールゲームは象徴的ですね。キャンプでこの練習を重ねたことはDFラインの中でも特に成長が期待される杉岡と舘にとってかなり実りあるものだったのではないかと思っています。

陣容を見るとDF陣こそほぼ入れ替えが無かったものの、今オフで正GKの谷が離脱、正GK候補としてソンボムグンが加入しました。日本代表にも招集されていた谷の穴は小さくありませんが、セービング能力こそ高かったものの足元の技術は発展途上だった谷に対し、新加入のボムグンはビルドアップ能力にもかなり期待できるとの評判です。DFラインのパスワークにフォーカスした練習は、谷の離脱を嘆くばかりではなく、これを機に湘南をビルドアップのできるチームへと変えていこうということなのかもしれません。

スタートダッシュの準備は万全

 昨季湘南を年間通して見た時、何より勿体なかったのは序盤の出遅れでした。昨オフは毎年の恒例行事のようになっていた主力選手の流出を抑えられ、レギュラークラスの選手を複数補強。陣容としてはチーム史上屈指、かつ他チームがコロナの影響に苦しむ中でほぼ万全で開幕を迎えた湘南は、一人勝ちと言ってもいい開幕を迎えられたはずです。ですが新加入の瀬川と米本を加えた陣容は思いの外機能せず、リーグ戦では開幕から8戦勝利無し。結局この出遅れが響き、目標の5位どころか確実と思われた一桁順位にも届かず昨季リーグを終えました。

しかし今季それと同じ轍を踏むことは無いと思っています。練習を見ていて感じたのは意外な程に早く練習の公開範囲が減ったことですね。湘南と同様に強度を重要視する鳥栖の練習と比較すれば一目瞭然です。フィジカルトレーニングは戦術的なデータ流出の心配が無く選手の頑張っている姿として見栄えもする為、もしフィジカルトレーニングに時間をかけていれば積極的に動画化したと考えられます。しかし今年の湘南はキャンプ序盤からフィジカルトレーニングの動画は限定的で公開範囲も少なかったことから、かなり戦術面の構築に時間をかけていたと考えられます。
昨季は焦りか、あるいは監督の経験不足からか開幕から新加入の瀬川と米本を起用し、前年終盤から大きく完成度を落としたチームはスタートダッシュに失敗しました。特に米本は攻守の要としてアンカーで期待されたものの中々フィットせず、結局田中聡がポジションを奪還、聡の海外移籍後は茨田が中心になり…とアンカーの起用は年間を通してバタついていた印象が強いですね。しかし今季は主力FPからの離脱は瀬川のみ、キャンプでも早期から戦術練習を実施と開幕を高い完成度で迎えようという明らかな意思を感じます。

開幕戦の相手は鳥栖ですが、昨季終盤の快勝は一旦忘れた方が良いでしょう。あの試合は湘南が残留争いの渦中であったのに対し、鳥栖はACLも降格も無くなっていわば消化試合でした。湘南の出来が良かったことを否定はしませんが、モチベーションに差があったのは明らかです。
とはいえ鳥栖はチームの完成を遅らせてでもフィジカル面の充実を狙った練習をしているように見え、湘南とは対象的なキャンプを送っています。となれば完成を急いだ湘南の方が状態としては有利と考えられますし、アウェイとはいえ十分に勝利を狙えるのではないでしょうか。

町野はもはや、キーマンではない

 ここで注目の選手について書こうと思いますが、世間的に最も注目されている町野はキーマンにならない、というよりもなるべきではないと私は考えています。「キーマン」とはチームの浮沈を握る存在ですが、今の町野は活躍して当然の選手であり、シチュエーションを作りさえすれば数字を残してくれる選手ではないでしょうか。であれば、湘南でキーマンと呼ぶべき選手は町野が点を取るシチュエーションを作る側の選手ではないかと思うわけです。

もし町野がチームの浮沈を握るとすれば、得点数よりも夏の海外移籍ではないでしょうか。先程チームとしてスタートダッシュ出来る状況を整えているということを書きましたが、今夏町野が流出する可能性を考えても、「序盤に勝点を稼いでしまいたい」というのが今季湘南の本音ではないかと思います。

中位の壁を越えるキーマンは2人

 いきなり否定から入ってしまいましたが、ではキーマンは誰なのかというところで、私は2人の名前を挙げておきたいと思います。

先程「町野が点を取るシチュエーションを作る選手がキーマン」と書きましたが、昨季最もその役割を果たしていたのは瀬川でした。瀬川は得点数こそ伸びませんでしたが、攻撃時のスペース作りやクロス時にニアへ飛び込んで潰れたり、ハイプレスのスイッチになったり中盤に下がってゲームメイクを助けたりと町野が活きる為の仕事を数多くこなしていました。今季湘南における序盤戦最大の課題はこの穴をいかに埋めるかであると言えるでしょう。
そういう意味で、1人目のキーマンは1人の選手というより、1つのポジションと言えるのかもしれません。
大橋や新加入の山下の存在も気にはなりますが、現状だと瀬川の穴を埋める最右翼となるのは阿部だと私は考えています。瀬川と比較して運動量や守備強度では劣るものの、ポジショニングセンスは互角、止める蹴るの正確さとシュート精度は瀬川を上回ります。現陣容では阿部で攻撃面の穴を埋めつつ得点力のアップを狙い、守備面はチーム全体でカバーするというのが最も現実的ではないでしょうか。

もう1人のキーマンは、最高の成長株かもしれない

もう1人は、ズルいかもしれませんが山口監督だと思っています。
スタートダッシュ失敗で始まり終盤戦はチームの成長を見て終えた昨季から、希望を持って新シーズンに望めるというのは分かります。しかしチームがシーズン中に成長するのはどのチームも同じですし、リーグ戦は成長度ではなく勝ち点を競うものであり、成長はあくまで勝ち点を得るための手段の1つです。サッカーが相手のある競技である限り、成長を結果に繋げるには他のチームを上回って成長しなければなりません。
そう考えた時、陣容の変化が小さかった湘南がシーズン通算でどれだけ相手を上回れるかは相当監督の手腕に左右されるのではないかと考え、山口監督をキーマンに挙げました。
厳しい言い方になりますが、昨季湘南ベルマーレのリーグ戦12位という結果を成功か失敗かで評価するなら失敗でしょう。昨季の湘南が本来持っていたポテンシャルからすれば、一桁順位には入って然るべきだったと思うからです。ですが、この「失敗」の評価からは1つの不確定要素を意図的に排除しています。
それは監督の成長です。
一昨年途中から監督に就任した山口監督にとって、キャンプから指揮を取る初めてのシーズンが昨季でした。と考えれば、昨季得た教訓と経験を持って臨む今季が勝負の年と考えていいはずです。今季湘南の浮沈を握るのは、山口監督1年半の成長ではないでしょうか。

監督とチームにとって勝負の年 成長より勝利を

 今季は降格が1チームのみということもあり、来季以降に繋げる成長と土台作りの年という見方もあるでしょう。しかしチームは生き物であり、右肩上がりで成長し続けるなんてことはあり得ません。万年残留争いから中位争い、ACL争いのチームになるには、チーム状況の良いタイミングで勝負を仕掛けて結果を残し、予算規模をアップする必要があるでしょう。私は今季が湘南にとってその勝負を仕掛けるべきシーズンではないかと思っています。
チーム歴代屈指の陣容で入れ替わりは少なく、近い将来の海外移籍が見込まれるエースストライカーが残留。勝利よりも成長と土台作りを優先したところで、これ程の条件が来季以降整うでしょうか。私は厳しいと思います。
今季例えば若手偏重の起用や新戦術の随時投入によってチームが成長したとしても、来オフ主力選手が抜けて選手が入れ替われば元の木阿弥です。そうならない為にも、今季のチャンスは成長を言い訳に手放して良いものでは無いと思います。
従って今季は勝負の年と位置付けて序盤から貪欲に勝ち点を集め、勝利という成功体験によって成長するチームになることを願っています。それが結実すれば、来オフは残留争いとは無縁のチームとして、ACL権を狙うと堂々宣言してのオフを過ごせるはずです。

開幕戦は超注目カードに

 以上の内容と後述の鳥栖の項を読んで頂ければ予想はつくかと思いますが、開幕戦の鳥栖vs湘南、個人的にかなりの注目カードです。元々目指す方向性の近い両チームが対象的なキャンプを過ごし、開幕を迎えます。
主力選手の入れ替わりが少なく、昨季の経験を活かして戦術面の構築を優先したキャンプからスタートダッシュを狙う湘南。
対し、FW陣総入れ替えで連携は再構築が必要な状況、キャンプでフィジカルと強度を重点的に鍛え、ポテンシャルを最大限に引き上げて伸び代たっぷりでスタートを切る鳥栖。状況的には湘南有利に見えますが、この試合は鳥栖ホームの開催。鳥栖はフィジカル面の優位が出にくい2月の試合で湘南を押し切れるのか。湘南はキャンプでビルドアップを仕込んだとしても昨季の状態から数ヶ月で鳥栖の強度に対してボールを動かせるのか。本当に見所の多いゲームになると思います。

サガン鳥栖

徹底したフィジカル強化 別次元の基準

 鳥栖の練習を見て何よりも目を引く特徴は全体練習でのフィジカル強化でしょう。今企画で複数回の練習を取り上げシーズンプレビューの対象とした7チームの中で、動画から伺えるフィジカルトレーニングの強度は鳥栖がぶっちぎりでトップです。戦術練習に時間を割くチーム、特に個々の実績や経験で勝る上位チームはフィジカルトレーニングにおける個人練習の割合が多いのですが、鳥栖は全体練習にウェイトやメディシンボール、ゴムチューブ等のアイテムを持ち込み、練習序盤からガンガン負荷をかけています。これは他のチームではやっていても精々キャンプ最序盤の身体作り段階のメニューなのですが、鳥栖はなんと2月に入ってもこういったトレーニングを継続していました。チームとして当たり前のフィジカル基準が本当に高いのだと思います。
またウェイトだけでなく、ボールを使ったトレーニングでも走力を要求するメニューが随所に入っており、特に2月6日の記事に掲載したゲームトレーニング等は象徴的です。
キャンプを通してとにかく競り負けない、走り負けない土台作りを重要視していると感じました。

フィジカルトレーニングに没頭出来るのは今だけ

 では何故フィジカルトレーニングに時間を使うのでしょうか。それはシーズン中の向上が最も難しいのがフィジカルだからでしょう。
シーズンが始まってしまうと中断期間を除き試合間は5~7日となります。試合後リカバリーに1日は必要ですから残りが4~6日ですね。もし高負荷のフィジカルトレーニングを行うと、翌日は負荷の大きなゲームトレーニング等は出来なくなってしまうので、戦術目の確認や課題の修正に使える時間が2~4日しか残らなくなってしまいます。これはいくらなんでも非現実的ですよね。仮に出来るとしても、4~6日間みっちりと次の試合に向けて戦術面とコンディション調整に時間をかけた方が勝ち点が伸びるのは明白です。
従ってチームとしてフィジカルトレーニングを集中的に行えるのはこの時期しか無いということになります。
逆に言えば戦術練習は時間あたりの体力消耗が抑えられるので、シーズン中も常時向上させることが可能です。
一応夏の中断期間もありますが、ここでは多少鍛えたところで夏の暑さで試合内容としてはチャラでしょうし、開幕から数ヶ月の間に多くの課題が出ているのは確実なので他にもやることが沢山あるはずですから、前述通りここで戦術面の肉付けをしていくのが理に適っているでしょう。

戦術面の完成が遅れるのは想定内

 では何故鳥栖以外はフィジカルトレーニングに時間を使っていないのでしょうか。それは技術・戦術面とトレードオフだからです。いくらフィジカルが必要だからといって、フィジカルトレーニングをやればやっただけ偉いという単純なものではありません。限られた時間と体力をどう使うかが大切であり、鳥栖は単にフィジカルトレーニングを沢山やっているのではなく、他のチームと比較して技術・戦術面を犠牲にしてフィジカルトレーニングに時間と体力を費やしているということですね。
それに対し優勝するには年間通して捨て試合を作れないので、上位チームは戦術面にフォーカスしたキャンプを送っているということになります。
となれば鳥栖は結果として開幕時点での戦術完成度は相対的に劣るということになるでしょう。従って開幕後しばらくは鍛え上げたフィジカルによる強度と、練習で随所に仕込んでいた個人の判断力やグループ戦術で勝負していくことになるのではないかと思います。

序盤戦を粘りきれれば

 以上より鳥栖のシーズンのキーは戦術面で相対的に劣る序盤戦をいかに粘りきれるかということになるでしょう。シーズンの青写真としては、序盤は耐えながら粘り強く拾える勝ち点を拾い、戦術面が充実してくるGW頃から本格的に勝負。体力面の差が顕著になってくる夏場に勝ち点を稼ぐ…といったところでしょうか。伸びしろが大きい状態で開幕を迎えるだけに、
・残留安全圏にいる
・トーナメントの早期敗退を避ける
あたり、低めに設定したハードルを確実に越えるのが序盤戦のミッションでしょう。そこさえクリアして春を越えれば希望の夏がやってきます。
その第一陣として勝負になるのが開幕の湘南戦ですね。湘南は前述の通り鳥栖と対象的なキャンプを送っており、完成を急いでいる印象です。昨季は12位ながら主力選手が残留しキャンプ内容からも戦術面の充実が予想される湘南に対し、強度で押し切って引き分け以上を奪えるようであれば、鳥栖にとって大きな意味を持つ勝ち点になるでしょう。

トーナメントに注力しても面白い

 後半追い上げ型のチーム作りをしているということで、トーナメントの序盤戦を勝ち抜けられればかなり面白い存在になるのではないかと思っています。降格枠の少ないリーグ戦を残留安全圏程度で戦えればという前提が果たされれば、中盤戦以降トーナメントに本腰を入れ、タイトルを狙うというのも十分現実的な戦略となるポテンシャルはあるチームだと思います。逆に言えばリーグ戦で躓きトーナメントでも早期敗退となってしまえばつまらないシーズンになってしまう可能性もあるので、とにかく鳥栖は序盤戦をどう切り抜けるかですね。

FC東京

練習で目立ったサイドチェンジ

 FC東京の練習で最も目立ったのはサイドチェンジでした。特に狭く集め、広く使う練習ですね。遅攻でコンパクトに作ったサイドでショートパスを動かし、サイドチェンジで広く空いた逆サイドを使う。広いサイドからポケットに侵入しクロスを上げる。そういう動きを集中的に仕込んでいるように見えました。今季のFC東京には仲川が加わり、LWのアダイウトン&レアンドロと合わせ左右どちらにも独力で突破できるWGが入ることになります。チョップ・チョップ・アザーサイドのサイドチェンジ練習は、彼らの力を最大限に活かす為、左右どちらでも狭く作ることも広く使うことも出来るようにと仕込んでいる練習なのかもしれません。
相手チームからすると、どこまでサイドチェンジを許容するのか、狭く作っている段階でどこまで狭く守るのかという判断が求められそうです。

鍵はプレスの練度

 昨季のFC東京は技術も強度も低くなかったものの戦術的な練度がもう一つで、上手くいかない試合はとことん上手くいかない極端なチームでした。今季求められるのは上手くいかない時にピッチ上で修正し、最小限のダメージでハーフタイムにロッカールームへ引き上げることでしょう。簡単な課題ではありませんが、新しい文化を持ち込んだアルベル監督が2年目を迎えるということで、時間が解決する部分も少なくないかなとは思います。このチームも神戸と同じく、昨季より確実に強いだろうという印象を受けますね。

セレッソ大阪

サイドチェンジの意識が高い FC東京との違いは

 ゲームトレーニングを見ていると、FC東京と同じくサイドチェンジの意識が高いように感じます。FC東京程に狭く作るというイメージではありませんが、左右に振って相手を動かそうという意図でしょうか。1つFC東京と大きな違いを挙げるとすれば、GKですね。スウォビィクとキムジンヒョンのスタイルの差が大きいとは思いますが、低い位置でのサイドチェンジはC大阪のほうが一段上ということになるでしょう。

意外な、速攻の仕込み

 意外だったのが速攻や運動量を要求する練習が複数入っていたことですね。遅攻寄りのメンバーなのは神戸に似ていますが、速攻向きの2人を補強した神戸とは違い、レオセアラとクルークスを補強したC大阪が速攻に重点を置いた練習をしていたというのは少し意外でした。小菊監督も3年目ということで、メイン戦術の充実よりも引き出しを増やそうとしたタイミングでの練習動画公開だったのかもしれません。

安定の面子と高い守備強度は健在、鍵は新戦力

 練習を見ていても高い守備強度は建材で、中盤から後方は選手の入れ替わりも少なく安定した陣容です。残念ながら主力級選手に離脱者がいる状態での開幕になりそうですが、熟成しつつあるチームに引き出しを増やしているとすればシーズンを通し安定して勝ち点を稼げるのではないかと思います。後方は安定するとすれば、キーになるのはレオセアラとクルークス、そして香川が加わった前線ですね。この2人はシチュエーションさえ作ってしまえば一発でゴールに至る破壊力を持っているので、彼らを効果的に活かす形を早い段階で構築できれば、十分にACL兼以上で戦えるチームになるでしょう。フロントとしても主力選手の年齢層が上がってきている中で選手補強に予算を注ぎ込んでおり、C大阪も今シーズン辺りを勝負の年と捉えてるのではないかと思います。

鹿島アントラーズ

「強く!速く!激しく!」から始まったキャンプ

 鹿島公式が何か言っていたわけではないのですが、最初に鹿島の練習動画を見た私の印象は「強く!速く!激しく!」でした。最初の記事にも書きましたが、良く言えば非常に真剣に、逆に言えば少し怖いくらいの雰囲気でかなり高強度の守備が目立つ練習内容でしたね。
ただTMには結果が出ず、J2チーム相手の3連敗はニュースにもなり話題になりました。個人的に練習の成果そのものは出ていると感じたので、この時点で既に首脳陣の手腕と時間との戦いだなという印象でしたね。

大外を使うビルドアップ

 鹿島の練習の中で戦術面の一端が見えたのは、大外にフリーマンを置く4ゴールゲームでした。いくつかの記事で書いたので詳しくは割愛しますが、4ゴールゲームは主にビルドアップのトレーニングで採用します。そしてフリーマンはゲーム内で明確な数的優位を取れる場所になるので、戦術的キーマンとして監督の意図が出る部分です。これらの情報から、今季鹿島のビルドアップはDFラインの大外に1枚入るビルドアップが予想されます。3トップでのハイプレスが流行する中でWGの更に外でボールを受けるビルドアップが機能するのか、機能するところまで熟成させて開幕を迎えられるのかは重要なポイントになりそうですね。

期待と不安、賭けるなら不安の側か

 これまでの記事で時間の問題としてきた鹿島の戦術構築ですが、個人的な印象では開幕に間に合わないのではないか、というのが正直なところです。TMだけではなく練習内のゲームトレーニングでも直前の練習と繋がりを感じるシーンが少なく、ビルドアップについても既存メンバーは元々不得手でクオリティは新戦力次第といったところです。ただ、開幕時点での完成度はともかく復帰組を含む新戦力のクオリティは間違いないので、選手の力で押し切るような試合はそれなりにあると思います。とはいえだからといってそこに頼ってしまうと上位進出とはいかないのがJリーグなので、やはり岩政監督の手腕次第ということになりそうですね。
岩政監督がどれだけやれるか、岩政監督をどれだけ我慢できるか、あるいは我慢するかが今季、いや近い将来を含めた鹿島の重要なターニングポイントになるのではないかと思います。

川崎フロンターレ

早々に公開範囲が激減、上位らしいキャンプ

 Jリーグ全体でも屈指の動画数を誇り、極めて露出が多い川崎Fですが、今季キャンプは全ての動画が10分以内、かつ殆どの動画が5分以内という露出の少なさとなりました。全体練習をかなり戦術練習に割き、フィジカルや基礎は個人練習の割合が多かったのでしょう。湘南の項で書いた、典型的な上位のキャンプですね。

2つのチャレンジ① 戦略面

新キャプテン橘田

 川崎Fは今オフ、不動のCBでありチームの大黒柱だったキャプテンの谷口が海外移籍により離脱しました。谷口は単に代表クラスのCBだっただけではなく、負けても苦しくてもチームの底が抜けないように支持する文字通りの大黒柱で、その穴は1人では絶対に埋まりません。
新キャプテン最有力は脇坂泰斗と思われていた中で鬼木監督は若手の橘田を新キャプテンに指名しました。監督・本人共に言っている通り言葉よりプレイで引っ張るキャプテンとしての指名だとは思いますが、個人的に思うところがもう1つ。キャプテンが支えるチームから、キャプテンを支えるチームに変わろうということではないかと思っています。谷口は任されたことは完璧にこなすスーパーマンで、これは中村憲剛の系統です。しかしそれを出来る選手は現在の川崎Fにはおらず、別の形を模索する必要があると考えた時、小林悠を憲剛と谷口、僚太、ソンリョンが支えていたように橘田を皆で支えるチームにしようということではないかと思いました。
「キャプテンは橘田だから」ではなく、各々が自分でやる。結果としてチームが強くなるという自分に矢印を向けるチームになり、タイトルに到達出来ればと思います。

戦力化の壁

 昨季全てのタイトルを逃した原因は何かと考えた時、一番に浮かぶのが戦力の少なさです。Jリーグの基準として考えれば十分な戦力なのですが、最終的に川崎Fが求める、鬼さんが求めるクオリティに達する選手は15人程度だったと思います。これは単に選手のクオリティという問題ではなく、戦術に組み込み、計算出来るところまで持っていけなかった現場の責任も小さくないでしょう。今季はこの「戦力化の壁」を何人が越えられるか、どれだけ多くの選手でシーズンを戦えるかが川崎Fにとって最大のポイントだと思います。
知念と谷口の離脱によりキャンプ開始時点ではマイナス2人からスタート。ここに既存戦力のチャナ・瀬古・遠野・小塚・高井幸大、新戦力から上福元・大南・瀬川・宮代大聖。この辺りから何人が実際の戦力となれるかが勝負です。まず2人越えなければ昨季を上回れません。そこから3人、4人と増えていけば、苦手な過密日程も過酷なトーナメントも勝ち進む力はあるはずです。

2つのチャレンジ② 戦術面

 キャンプでのニュースから聞こえてくる、より流動的でハイリスクハイリターンな配置変更が今季川崎Fにとって戦術面の大きなチャレンジなのでしょう。映像では観られていませんし、ハイリスクな戦術をメインに据えるのかあくまで引き出しを増やすだけなのかも分かりませんが、川崎Fは前回連覇が途絶えた時にも4-3-3の導入という大胆な変更を経てチームを作り直しました。
上位に居座れば対策は知れ渡り、海外移籍による主力選手の流出も避けられません。どんなに強いチームでも変化を強いられるのがチーム作りの難しさで、今川崎Fはその最も難しい状況に直面しているのでしょう。
その成果がどんなものなのか、不安もありますがそれを大幅に上回って開幕戦が非常に楽しみです。

この苦しみを繰り返して、帰還を待つ

 川崎Fがタイトルを狙えるチームであり続ける限り、強化→弱体化→変化という苦しいサイクルは続くでしょう。しかしこのサイクルをあと2回も繰り返せば、海外に送り出した選手の帰還という新たな補強ルートも出来るでしょうし、スタジアム改修による予算規模の拡大も現実的な段階まで来ました。強いチームで居続けるという中で今が一番苦しい時期なのかもしれませんが、このループに負けず等々力改修の完了と巣立ったトップ選手達の帰還を待ちましょう。その第一歩として今季2つのチャレンジを完遂しタイトルを獲得出来れば、川崎フロンターレは望む未来に大きく近付けるはずです。

終わりに

 開幕直前に一気に書き上げたので少々駆け足になってしまいましたが、練習動画記事の延長として今の自分に出来る限りのプレビューでした。これで開幕前の記事は全て終わりとなり、開幕後の更新については少しペースを落としつつ進めていきたいと思います。今後とも宜しくお願い致します。

Follow me!