基本の守備戦術①[中を切る・外で奪う守備]
基本的な守備戦術についての記事です。チーム全体が能動的にボールを奪うプレスディフェンスのやり方には大きく分けて2種類あり、1つが[中を切る・外で奪う守備]、もう1つは[縦を切る・中で奪う守備]です。
この記事では[中を切る・外で奪う守備]について書きます。以降[中を切る・外で奪う守備]を『中を切る守備』と呼称します。
【共通項目】『最強の戦術』は存在しない
あらゆるスポーツに共通することですが、『最強の戦術』というのは存在しません。どんな戦術にも特徴や一長一短があり、対策や対策の対策が存在し、リスクとリターンはいつもトレードオフです。サッカーの戦術でも次の様にリスクとリターンの関係が挙げられます。
☆守備と攻撃
多くの人数をかけて守れば守りは固くなりますが、攻撃に人数をかけられなくなるので得点力が低下します。攻撃に人数をかければ守備が脆くなります。
☆要求と難易度
高い要求に対応出来れば多くの局面で優位に立てますが、要求が高くなる程に難易度が上がります。例えば、全員の運動量が上がれば多くの場面で数的優位を作れるようになりますが、高い走力が求められます。
☆引き出しの多さと練習時間
より多くの引き出しがあれば多くの戦術に対応出来るようになりますが、必要な練習時間が多くなり、戦術1つ当たりにかけられる時間が短くなります。
☆ゾーンとマンツーマン
ゾーンで守るとスペースに埋めやすくなりますが人が空きやすくなり、マンツーマンで守ると人に付きやすくなりますがスペースを空けやすくなってしまいます。
このように『全てにおいて最強の戦術』というものは存在しないので、各戦術のメリットとデメリットを正しく理解し、必要な戦術を選択することが大切です。
また、守備だけするチームも攻撃だけするチームも存在しない様に、完全に言葉通りの戦術を採用するのではなく、チーム毎にバランス(割合)を考えた中間的な、あるいは局面で変えるような複数の戦術をミックスして使うことが多いです。
プレスディフェンスの基本
分類としては守備ですが、相手が攻めてくるのを待ち構える『守る』守備ではなく、自らボールを『奪う』守備がプレスディフェンスです。そのプロセスはチームや局面の数だけありますが、その中でもいくつか基本となる考え方があります。
☆スタートはCBからSBへのパス
プレスのスタート地点は最も再現性が高く試合中頻繁に行われるCBからSBへのパスとします。 また、自陣ゴールから最も遠い位置でもあるので、そこからの守備を前提としていればその応用で他の位置での守備も自然と決まります。
☆理想は足元でのインターセプト
ボールを奪った後には当然攻撃となるので、より攻撃に繋がりやすい奪い方を目指します。従って理想はボールを完全に奪うことができて相手からの即時奪回も防ぎやすい足元でのインターセプトです。次いで1vs1で奪い切ることですね。逆に言えばパスカットでも弾いてしまったりロングボールをヘディングで跳ね返すのは、その後の攻撃に繋げ辛いのでプレスディフェンスの狙いからは外れます。※これらは当初の狙いとは違いますが、相手の攻撃自体は防げます。
☆切っている方に出されると厳しい
プレスディフェンスは相手の選択肢を削ることで狙いを絞る守備なので、削っているはずの選択肢を使われると厳しくなります。例えば中を切る守備で切っているはずの中に通されると、ガラ空きの逆サイドへ通されてピンチに繋がります。
中を切る守備のメリット
中で切る守備とは、外に追い込んで奪う守備という意味です。メリットは次の様になります。
☆ラインを味方に出来る
外に向かって追い込むので、タッチラインも攻撃側の選択肢を奪う味方として使うことが出来ます。ライン際であれば困った時に蹴り出してスローインに逃げられます。
☆抜かれた時のリスクが小さい
追い込みに失敗して抜かれてもゴールから角度のある位置になるので、奪われて即失点に繋がるリスクが低いです。
☆中央に入られにくい
外へと追いやる守備なので中央に入られにくくなります。
☆サイドチェンジをされにくい
中を切るので逆サイドへのロングキックをされにくく、あまり左右のスライドを求められません。
中を切る守備のデメリット
上記のメリットに対し、中を切る守備のデメリットは次の様になります。読んで頂くと分かる通り、全てメリットとのトレードオフです。
☆奪い切れないことが増える
ライン際に追い込むので、奪い切れずスローインになることが多いです。スローインも守備側が弾き出すことで攻撃側のスローインになりやすいです。
☆奪い切れてもゴールから遠い
サイドで狙い通り奪い切れても、ゴールから遠いので素早い攻撃からゴールを奪うのが困難です。
☆深い位置に入られやすい
プレスで中を切るので縦へ運ばれやすく、ペナルティエリア両脇あたりまで入られることが増えます。
☆縦へのロングボールを蹴られやすい
中を切るので縦が空き、縦方向のロングボールを蹴られやすくなります。その為DFラインのスピードが不足していたり、しっかりとヘディングで跳ね返せないとピンチを招きます。
中を切る守備を採用すべきチームの特徴
以上のメリット・デメリットを踏まえて、中を切る守備を採用すべきチームの特徴は次の様になります。
☆遅攻が得意
速攻に移行し辛い守備戦術なので、遅攻で十分に得点出来るチームが守備のリスクを抑える目的で採用するのに適しています。
☆戦術理解に難のある選手を起用する
プレス失敗時のリスクが低いので、守備面での戦術理解に難のある選手でも起用しやすくなります。選手毎の戦術理解度にバラツキのある学生サッカーや、プロでも外国人選手に頼ったチーム構成等ではメリットが大きいです。
☆採用しやすいフォーメーションは
サイドチェンジが少なくなるので中央に人数の多いフォーメーションでの採用が容易です。特に3バックではメリットが大きいので、採用しやすいフォーメーションとして3-5-2等が挙げられます。
中を切る守備の基本的なプレス
ここではオーソドックスな4-4-2に対して前述の3-5-2のチームが中を切る守備を行う場合を例に図を用いて説明します。
プレスのかけ方は前述の通り最も再現性が高く試合中頻繁に行われるCBからSBへのパスをスタートにするのが基本です。
ここではCBの1がSBの2にパスするところからスタートします。
【図-①】1がボールを持つとAがプレスをかけます。他の選手はニュートラルポジション近くのマークに付き、2へのパスを誘発します。
【図-②】Aは1へのバックパスを切り、Bは2の中を切ります。2からCMの4を使われると簡単にサイドチェンジされてしまうのでBは特にしっかりとこのコースを切ります。これによりサイドチェンジの手段が無くなるので、全体が右へスライドして逆サイドは捨てる形になります。
ここでCが2から3へのパスをインターセプトするのが理想の形です。
最後に中を切る守備のよくある外し方です。逆に言えばディフェンス側はこれらに対する準備を入念に行う必要があります。
【図-③】3がスペースを作り2がドリブルで縦に運びます。Bが中を切ることで空く縦のコースへ2がドリブルで運ぶのがこのパターンです。2がボールを持ち出して時間を作ることで4や6へのコースが空いたり、5を使ってゴールキーパーに下げることでプレスを外します。Bに奪われて入れ替わってしまうとピンチになりますが、特にSBの能力が高いチームではこの外し方を多用します。これをやられるとBが消耗するのもディフェンス側にとって辛い所です。
【図-④】図右下の青点線辺りを狙ってロングボールを蹴ります。綺麗に繋がる可能性は高くありませんが、もし通れば攻撃力のあるFWやSHが高い位置で勝負出来たり、少ないリスクで深い位置に侵入出来るのでカットされても敵陣でのスローインを得られる方法です。中を切る守備の持つ弱点をダイレクトに突く崩し方となり、無理やりDFラインを下げさせられてしまうのでプレスが無効化されてしまいます。1が1’の位置に入りバックパスを大きく蹴り出すのもよくあるパターンですが、Aがプレッシャーをかけてくることもありこの方法で敵陣深くに正確に蹴ることは困難で、プレスから逃げるだけで終わることが大半です。