ロングスローの是非とスローインの存在についての個人的な考察
サッカーの試合において頻発する敵陣でのスローインを一発でチャンスに繋げられるロングスローという戦術は少なくとも数十年前から存在するものですが、近年の高校サッカーでの多用やロングスローを多用し躍進する黒田監督率いるFC町田ゼルビアの存在もあって、今年は今まで以上に参否うずまく議論となっています。そこで今回はロングスローの是非を中心に、スローインについて自分の考えを整理してみようと思います。
まずは主観をぶちまけておく
いきなりですが、スローインについて最初に思い切り私の主観を書いておこうと思います。これは正しいかどうかは別としてであり、あくまで主観、私個人の好き嫌いです。客観的な事実は現行ルールとピッチ上(選手のプレイやレフェリーの振る舞い、ルール運用等)にしかありませんしね。この記事は基本的に主観で書く前提です。
正直にぶちまけてしまいますが、私はスローインがそもそも好きではありません。私が好きなのはフットボールですからね。両手でボールを持って投げることの何がフットボールだというのですか。個人的には、ゴールキーパーは別としても、そもそもスローインなどフットボールにはあるべきじゃないと思っています。もうロングスローとか以前の話ですよね。なので当然の結論ですが、フットボールの本質とは言い難いスローインが直接得点・失点に絡むことになるロングスローが、通常のスローイン以上に私は嫌いです。
スローインは必要悪のルールなのではないか
そもそもスローインとは何かという話です。これを説明するのであれば「フットボールは限られたラインの内側で行うスポーツである。その前提の元、タッチラインを割るという反則を犯したチームからボールを取り上げた上でゲームを再開する方法、それがスローインである。」と言えます。
それを踏まえた上で、やはり私は前述の通りスローインはフットボールの本質ではないと思っています。
大きく出てしまいますが、おそらくFIFAもスローインは好きじゃないのではないかと思います。もしFIFAがスローインを好きなのであれば、ファウルスローをより厳格に取り締まり、正しいスローインについてもっと普及も言及もするでしょう。ですがそんな話は聞いたことがありませんし、事実としてトップレベルの試合でもファウルスローはかなり甘く判定されており、厳密なジャッジよりも試合の流れを優先しているのが見て取れます。
ではFIFAですら好きではなさそうなスローインなんてものが、何故フットボールの中に存在するのでしょう。フットボールにおける外へのラインアウトからの再開方法として、何か代案は無いのでしょうか。
少し考えてみましたが、提案したくなる程の代案は出てきませんでした。
例えばフットサルで採用されるキックインならどうでしょう。これは攻撃側に有利過ぎますね。極端な話、ペナルティエリアの横で守備側がタッチライン外にボールを出したら、全てCKと同等以上のチャンスとなるFKが与えられるわけです。ただボールをタッチラインの外に出したというだけで、これは流石に守備側への罰として重すぎるでしょう。これを採用してしまうと攻撃側優位が過ぎる故に所謂「当て出し」が多発して、逆にフットボールがつまらなくなるかもしれません。
ならば敵陣でタッチラインを割り攻撃側のボールとなった場合のリスタートは全て自陣任意の場所からのキックインとしてはどうでしょうか。これも良くないですね。そもそもリスタート時にボールが移動するというのがイマイチです。流れが切れて面白くありません。
この辺りを考えると、スローインというのは必要悪のルールではないかという考えにたどり着きました。ボールがタッチラインを割った際、フットボールの本質を維持したまま再開する適当な手段は無い。なので、仕方なく手で投げ入れることにしている。遠投に向く片手投げを禁止していたり、助走の自由を制限する両足着地のルールがあることも「スローインを本当はやりたくない」ということの現れではないでしょうか。しかし多くの選手や指導者が創意工夫を重ねた結果、両足を着地しての両手投げという制限の中でも遠投がされるようになってきた。それがロングスローなのではということです。
ロングスローはやるべきなのか、そしてさせるべきなのか
ロングスローをやるべきか
おそらく本題はコレでしょう。この項はロングスローの話題なので、以降は敵陣ペナルティエリア横でラインアウトした場合の話に限定します。
まずロングスローをやるべきかという話ですが、可能ならばやるべきな場合が多いと言わざるを得ないでしょう。これも必要悪故のエラーですが、スローインはピッチ内の人数が攻撃側10対守備側11となり、何故かラインアウトの反則を犯した守備側が数的優位となるので、近距離でのスローインからしっかりと繋ぐというのは外から見ている以上に難しいことです。稀に奇襲が決まることもありますが、余程技術の高いレシーバーがいない限り近距離でのスローインはバックパスからのやり直しになることが大半です。
それに対しロングスローはほぼノーリスクでゴール前にボールを送り込むことができます。ロングスローを投げられる選手さえいれば、特別な技術は必要ありません。それがどれだけチャンスになるかはチームによるでしょうが、技術をコストと考えた場合のコストパフォーマンスは短距離スローを圧倒的に上回るでしょう。
もちろん短距離スローからバックパスでのやり直しが有効な局面自体は少なくありませんので、どんな局面でもロングスローをすべきという話ではありませんが、少なくとも「ロングスローができるに越したことはない」という結論になるかと思います。
ロングスローをさせるべきか
では視座を変えて、指導者としてロングスローをさせるべきなのか考えてみます。これは「やるべきか」と比較した場合より意見が分かれるのではないかと思います。
まず勝つためにと言うのなら、させるべきでしょう。前述の通り非情にコスパの良い戦術なので、有効な手札となります。ですが先程の話には「(ロングスローが)可能ならば」という前提がありました。その通り、可能ならばコスパが良い攻め手となります。ですが、ロングスローが可能な選手がいなかった場合、できるように練習させるべきでしょうか。意見が分かれるとしたらここだと思います。先程私は「スローインはフットボールの本質ではない」と書きました。その論を通すのであれば、ロングスローができるように練習させるということは、フットボールの本質ではないことを練習させるために選手の貴重な時間を割くということになります。文の雰囲気から察して頂ける通り、私は極力そんなことはさせたくありません。
現実的にはチームを指導していれば、「ナチュラルに身体能力が高くロングスローが投げられる」、「フィジカルが強化される過程でスローインの飛距離が伸びた」、「紅白戦でチャレンジしたら思ったより飛距離が出たので戦術に組み入れた」といったことは普通にあるでしょう。それならば問題はありません。ですが、わざわざロングスローを戦術として組み込むためにロングスローの練習を取り入れるということは個人的にはやりたくありません。貴重な時間を費やすのであれば、他に優先してやりたい練習はいくらでもあると思っています。
フットボールからロングスローを排除するには
案1:戦術としての価値を下げる
「排除」と少し過激な表題にはなってしまいましたが、私の主観からすれば当然ロングスローを無くしてしまいたいという発想になります。方法は現実的には2案あると考えていて、1つ目の案が対策を浸透させることでロングスローを採用する戦術的な意義を奪ってしまうということです。具体的なセオリーとしてはゴールキーパーの守備範囲を前提に対ロングスロー用のゾーンディフェンスを整備することになるかと思います。ロングスローはキックでのセンタリングと比較して球速が遅いので、ゴール前のシュートゾーンは基本的にゴールキーパーが処理可能です。プライムターゲットエリアを空けてゴールキーパーを少し前に配置し、範囲外をフィールドプレイヤーのゾーンで対応します。
意外にこういう守り方をするチームは多くないのですが、ゴールキーパーが小型であったり他に有用な戦術があるといった事情が無い限り、現行ルールでは最低限このくらいの対策はしっかりやるべきだと思います。
(正直なところ、フットボールではないもののためにこんな対策をわざわざ準備するのも嫌ですけどね)
案2:ルールを変更する
ロングスローの排除に向けたもう1つの案は、ルールの変更ですね。案①以上にフットボールファンの立場ではどうにもならない案ではありますが、私の中でルールの修正案はあります。
①タオルの使用禁止
巷で話題のやつですね。これは現行ルールでも運用の変更で可能だと考えています。なぜなら、タオルを使用したロングスローは時間を使いすぎです。タオルでボールを拭いてからのロングスローは、ラインアウトからプレイ再開までに30秒から場合によっては1分近く時間を使います。ですが通常のセットプレイ、それこそロングスロー以外のスローインで30秒もボールを保持していたら確実に警告の対象となるでしょう。「ボールに対しタオルの使用を禁止する」というルールを追加できれば理想ですが、そもそもプレイ再開までに何十秒も時間を使うということへもっと違和感を持つべきだと思います。
②助走の制限
これは①と違い、確実にルールへの追記が必要です。例えば助走を静止状態から2歩までと制限してしまえば、ロングスローをエリア内まで届けられる選手は激減するでしょう。助走無しでもスローインの飛距離が出る選手はいますが、頭上でのスイングのみではスピードが出ないので少なくとも球速が落ちます。そうすれば案1に記載したようなゴールキーパーによる処理が容易になるため、ロングスローの戦術的な価値が下がるはずです。
フットボールで戦う姿が見たい
主観の記事なので言いたいことを言わせてもらいましたが、考えを整理してもやはり私の結論は「スローインはフットボールの本質ではない。必要悪なのは認めるが、極力フットボールの邪魔をしないようにすべきだ」ということになります。ただこれは現行ルールの元で行われるロングスローを否定するものではありません。そもそもスポーツというものはルールの枠組みがある中でフェアに戦うものですが、グレーゾーンの探り合いという側面は必ずあります。コロンブスの卵が何より持て囃されるのがスポーツの世界です。従って他者より先に卵を立てた者はそうでない者に対し勝利を手にし、その時代では称賛されるべきです。ただ、それが明らかに競技の本質を外したものであれば、やはりルールが後追いで対応すべきでしょう。私はロングスローもそういった類のものであると考えています。今後ロングスローという戦術がどう扱われることになるのか私には分かりませんが、105m✕68mの美しいピッチの中で、よりエキサイティングな「フットボール」が繰り広げられるようになることを願っています。