基本の守備戦術②[縦を切る・中で奪う守備]
基本的な守備戦術についての記事です。チーム全体が能動的にボールを奪うプレスディフェンスのやり方には大きく分けて2種類あり、1つが[中を切る・外で奪う守備]、もう1つは[縦を切る・中で奪う守備]です。
この記事では[ 縦を切る・中で奪う守備 ]について書きます。以降[ 縦を切る・中で奪う守備 ]を『縦を切る守備』と呼称します。
縦を切る守備は所謂『ハイプレス』に繋がる守備戦術で、即時奪回やハーフコートゲームを狙うチームはこの縦を切る守備を基本に戦術を組み立てています。
【共通項目】『最強の戦術』は存在しない
あらゆるスポーツに共通することですが、『最強の戦術』というのは存在しません。どんな戦術にも特徴や一長一短があり、対策や対策の対策が存在し、リスクとリターンはいつもトレードオフです。サッカーの戦術でも次の様にリスクとリターンの関係が挙げられます。
☆守備と攻撃
多くの人数をかけて守れば守りは固くなりますが、攻撃に人数をかけられなくなるので得点力が低下します。攻撃に人数をかければ守備が脆くなります。
☆要求と難易度
高い要求に対応出来れば多くの局面で優位に立てますが、要求が高くなる程に難易度が上がります。例えば、全員の運動量が上がれば多くの場面で数的優位を作れるようになりますが、高い走力が求められます。
☆引き出しの多さと練習時間
より多くの引き出しがあれば多くの戦術に対応出来るようになりますが、必要な練習時間が多くなり、戦術1つ当たりにかけられる時間が短くなります。
☆ゾーンとマンツーマン
ゾーンで守るとスペースに埋めやすくなりますが人が空きやすくなり、マンツーマンで守ると人に付きやすくなりますがスペースを空けやすくなってしまいます。
このように『全てにおいて最強の戦術』というものは存在しないので、各戦術のメリットとデメリットを正しく理解し、必要な戦術を選択することが大切です。
また、守備だけするチームも攻撃だけするチームも存在しない様に、完全に言葉通りの戦術を採用するのではなく、チーム毎にバランス(割合)を考えた中間的な、あるいは局面で変えるような複数の戦術をミックスして使うことが多いです。
プレスディフェンスの基本
分類としては守備ですが、相手が攻めてくるのを待ち構える『守る』守備ではなく、自らボールを『奪う』守備がプレスディフェンスです。そのプロセスはチームや局面の数だけありますが、その中でもいくつか基本となる考え方があります。
☆スタートはCBからSBへのパス
プレスのスタート地点は最も再現性が高く試合中頻繁に行われるCBからSBへのパスとします。 また、自陣ゴールから最も遠い位置でもあるので、そこからの守備を前提としていればその応用で他の位置での守備も自然と決まります。
☆理想は足元でのインターセプト
ボールを奪った後には当然攻撃となるので、より攻撃に繋がりやすい奪い方を目指します。従って理想はボールを完全に奪うことができて相手からの即時奪回も防ぎやすい足元でのインターセプトです。次いで1vs1で奪い切ることですね。逆に言えばパスカットでも弾いてしまったりロングボールをヘディングで跳ね返すのは、その後の攻撃に繋げ辛いのでプレスディフェンスの狙いからは外れます。※これらは当初の狙いとは違いますが、相手の攻撃自体は防げます。
☆切っている方に出されると厳しい
プレスディフェンスは相手の選択肢を削ることで狙いを絞る守備なので、削っているはずの選択肢を使われると厳しくなります。例えば縦を切る守備で切っているはずの縦に通されると、ガラ空きのスペースで前を向かれてピンチに繋がります。
縦を切る守備のメリット
縦で切る守備とは、ピッチ中央に追い込んで奪う守備という意味です。メリットは次の様になります。
☆奪い切れる可能性が高い
ラインから遠い位置で奪いに行くので、ライン外へ逃がしにくく奪い切れる可能性が高くなります。
☆ゴールの近くで奪える
中央に向かって追い込むので、ゴール正面付近でボールを奪うことが出来ます。多少距離が遠くてもゴール正面で奪うとその後の選択肢が増えるので、得点に繋がる可能性が高くなります。
☆スピードを上げられにくい
ファーストディフェンダーが相手の正面に立つのでスピードを止めやすく、速い攻撃を受けにくくなります。
☆裏へのボールを蹴られにくい
縦を切るので裏へのロングボールを蹴られにくくなります。
縦を切る守備のデメリット
上記のメリットに対し、縦を切る守備のデメリットは次の様になります。読んで頂くと分かる通り、全てメリットとのトレードオフです。
☆奪い損ねた時のリスクが大きい
中央へのパスを奪いにいくので、万一パスが通ってしまうと相手のチャンスになりやすいです。
☆1vs1の要求が高い
相手の正面に立つので1vs1の局面が出来やすく、抜かれないことを前提としているので選手への要求が高くなります。
☆ 戦術理解の要求が高い
1人のポジショニングミスで破綻して躱されてしまうので、個々の戦術理解への要求が高くなります。
☆サイドチェンジにより消耗しやすい
縦を切るのでプレッシャーが甘いとサイドチェンジを誘いやすく、スライドの連続により体力が消耗しやすくなります。
縦を切る守備を採用すべきチームの特徴
以上のメリット・デメリットを踏まえて、縦を切る守備を採用すべきチームの特徴は次の様になります。
☆速攻を狙いたい
ゴールに近い位置で奪えるので、パスカットからパス数本で得点するようなシーンを作りやすくなります。
☆戦術理解度の高い選手が揃っている
メリット・デメリットから分かる通り自分にも相手にも高い要求を強いるハイリスク・ハイリターンな守備なので、リスクを抑え最大のリターンを得る為には選手個々の戦術理解度が高いことが前提となります。
☆採用しやすいフォーメーションは
ファーストディフェンダーが縦を切る前提なので、サイドの高い位置に選手が配置されるフォーメーションが有利となります。従って4-3-3と同時に採用するチームが多い戦術です。
縦を切る守備の基本的なプレス
ここではオーソドックスな4-4-2に対して前述の4-3-3のチームが縦を切る守備を行う場合を例に図を用いて説明します。
プレスのかけ方は前述の通り最も再現性が高く試合中頻繁に行われるCBからSBへのパスをスタートにするのが基本です。
ここではCBの1がSBの2にパスするところからスタートします。
【図-①】1がボールを持つとAがプレスをかけます。他の選手はニュートラルポジション近くのマークに付き、2へのパスを誘発します。
【図-②】Aは1へのバックパスを切り、Bは2の縦(SB→SHのパスコース)を切ります。縦へのコースは確実に切りつつ、ロングパスを蹴らせない距離まで詰めるのがポイントです。Dは中央付近にポジションを取りますが、タイトにマークしなくても万一カットされれば即失点の厳しいパスになるので、サイドチェンジを牽制するように意識します。それ以外のポジションは全体が中央へ絞り、同サイドの縦と逆サイドは捨てる形になります。
これにより2は4へ出すか苦し紛れのパスを前線に送る以外の手段が無くなるので、Cが2から4へのパスをインターセプトするか、苦し紛れの前線へのパスを絞って数的優位を作ったDF陣が囲んで奪うのが理想の形です。
最後に縦を切る守備のよくある外し方です。逆に言えばディフェンス側はこれらに対する準備を入念に行う必要があります。
【図-③】2がドリブルで中へ運びます。そのまま前線に蹴ることもありますが、実戦ではDを引っ張って逆サイドに回すことでプレスを回避することが多いです。中を切る守備ではゴールから遠い方へ逃げていましたが、この場合自陣ゴールに近付くドリブルを強要されるので非常にリスクが高くなり、SBの高い技術・判断力が要求されます。
【図-④】切られている3へ無理やりボールを通すことでプレスを回避します。例えば図の様にBのコース切りが甘くなった時に2から3へ通したり、浮き球や股下等のトリッキーなパスを用いて2→3もしくは2→4→3とパスを通すことで打開します。どちらにせよ切っている位置へ無理やりパスを通す必要があるので、速いパススピードと高い技術が要求されます。
技術的には難しいですが攻撃側としては3にボールが渡ると高い位置のスペース(青点線)で前を向くことが出来るので、ドリブルで自ら運んだり、Cを引っ張れれば中央の4から展開、Eを引っ張れれば6がスペースに飛び込んだりと攻撃の選択肢が多く得られます。逆に言えば守備側としてはこれだけはやらせないように注意する必要があります。