ラインディフェンスの定義と基本

 戦術の話です。今回はラインディフェンスとは何なのかについて書こうと思います。
位置付けとしては
個人戦術⇒⇒⇒グループ戦術⇒➡⇒チーム戦術
この辺です。
ラインディフェンスの分類はグループ戦術ですが、採用するのであればチーム全員に最低限の理解が必要です。

サッカー漫画の功罪

 「いきなり漫画の話かよ」と思われてしまうかもしれませんが、大事なことです。
皆さんは「ラインディフェンス』と聞いて何を思い浮かべますか?
おそらく多くの方が「オフサイドを取れる」ということではないかと思います。
コレ、漫画の影響が大きいですよね。
メジャースポーツは多かれ少なかれ漫画の功罪というものがありますが、サッカーはキャプテン翼を始めとするサッカー漫画の『功』を非常に大きく受けていると思います。サッカー漫画が日本サッカーのプレイ人口を下支えしていると言っても過言ではないでしょう。
しかしこのラインディフェンスについてはサッカー漫画の『罪』を書かずにはいられません。私の知る限り、ほとんどのサッカー漫画においてラインディフェンスとはオフサイドを取る戦術、オフサイドトラップと混同されており、実際そう理解している人が多数です。
確かにラインディフェンスは対になるスイーパーシステムと比較すればオフサイドを取りやすい戦術ですが、定義からも本質的なメリットからもズレており、理解の入口としては宜しくないというのが私の意見です。
ですのでまずはラインディフェンスはオフサイドトラップとは全く別の物ということをスタート地点として、次の話を始めましょう。

ラインディフェンスの定義

 ここは単純です。スイーパーを置かないディフェンスラインですね。
ただ現代サッカーでスイーパーを置くチームはほとんどありません。では、ほとんどのチームがラインディフェンスなのかと言われると微妙に違うので、ここでは少し定義を変えましょう。
ラインディフェンスは、『スイープしないゾーンディフェンス』と定義すればまず間違い無いかと思います。
ここで言う『ゾーンディフェンス』は、マンマークと対になる戦術で、相手の動きに合わせてマークを受け渡すディフェンスです。今回の本題ではないので詳しい説明は避けます。

では「スイープする・スイープしない」とはどういうことか。
ディフェンスの基本はチャレンジ&カバーです。1人がボールにチャレンジし、後ろでカバーする。同じくディフェンスの基本であるワンサイドカットもほぼ同様の意味で、これはチャレンジの選手が片側を切り、逆側にカバーが入るグループ戦術ですね。
スイープするディフェンスではこれを連続して行います。
スイープでのゾーンディフェンスを単純化すると下図のイメージになります。

このやり方だと相手FWの動きを制限出来ませんがどこで裏に抜かれても最低限のカバーが効く為、ローリスクな守り方と言えます。プロではあまり見ませんが、スピードのあるCBがいる場合の学生サッカー等では特に有効な守り方ですね。

ラインディフェンスの基本

 ではラインディフェンスではどんな守り方なのか。
先程と同様の図で表すと下図のようになります。

ポイントはカバーの選手に合わせて残りのDFがラインを形成するということですね。
これだと背後のスペースはオフサイドになる為相手FWの動きを制限出来ますが、ラインが崩れると一気に置いて行かれるリスクがあります。
ポイントは上図で言う4番の選手です。ボールから遠いDFがラインを形成出来ていないとこのディフェンスは成立しません。理由は視線ですね。
下図をご覧ください。今度はDFの表記を矢印にして視線を表現しています。

右図のように、1・2は3・4の姿が見えません。なので、チームとしてラインディフェンスを採用している場合、2は3と4がラインを形成してると信じて動きます。
その結果どうなるか。

ラインがきちんと形成されていれば左図のように2がオフサイドと判断しマークを捨てる守備が出来ます。しかし、ライン形成が不十分だと右図のように一気に決定機を与えてしまいます。
このリスクを防ぐには、DF陣の意思統一とラインの上下動が必要になります。

ラインの上下動

 ではいつラインを上下するのか。これは非常にシンプルです。
前に出てきそうな時に下げ、出て来なさそうな時に上げます。
究極のところこれを繰り返すだけです。ラインの上下は基本的に1人のCBが指示します。
「アップ」・「ダウン」もしくは、「上がれ」・「下がれ」ですね。
しかし人間は切り返しの際に重心移動があり、ノータイムでアップからダウンに切り替えることが出来ません。そのラグでラインがズレることを防ぐ為、実際は「ステイ」・「止まれ」の指示が入ります。

では前に出てきそうな時とはどんな時か。簡単に言えば相手が前向きでボールに触る時です。フリック等の例外もありますが基本的にはコレですね。バックパス・横パスの間や、相手が後ろを向いている時にラインを上げ、裏にボールが出てくる可能性のあるタイミングでラインを下げることで相手FWをコントロールし、常に先手で動くのがラインディフェンスです。

ラインディフェンスの完成度

 ここが難しい所です。上記のラインの上下動が完璧で細かなバックパスの間にもラインを上げるような高精度なラインコントロールをするチームはラインディフェンスの完成度が高いと言えますが、ラインディフェンスの完成度が高い=ディフェンス力が高いということではありません。
むしろ上位チームではあえてラインディフェンスの完成度を一定レベルに抑えていることもあります。
これは多国籍軍となりがちな欧州主要リーグ上位チームで特に顕著な傾向で、全員でラインを上下動することを少なくし、能力の高いCBが個々の判断でカバーに入る守り方をします。

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