ゾーン・エリアの呼称④ プライムターゲットエリア

プライムターゲットエリアとは

 プライムターゲットエリアとはサッカーのピッチにおいて最もゴールが生まれやすいエリアのことです。明確な定義はありませんが、一般的にはゴールエリア程度の幅かつペナルティスポットの前方を指します。テレビや配信では「ゴール前」や「ゴール正面」等と言うことが多く、あまり「プライムターゲットエリア」といいう言葉を使用することはありませんが、イージーなサッカー観戦から一歩踏み込んで攻撃戦術を語る為には欠かせない重要な言葉です。

全ての攻撃戦術の目標

 では何故『プライムターゲットエリア』が重要なのでしょう。
そもそも攻撃戦術は何を目標としているのでしょうか。勿論最終的にはゴールが目的なのですが、目標はそこではありません。攻撃戦術の存在意義はより可能性の高いシュートを打つシチュエーションを意図的に作り出すことであり、言い換えれば「再現性のあるプライムターゲットエリアへの侵入方法」こそが攻撃戦術の目標となります。即ち全ての攻撃戦術はプライムターゲットエリアからの逆算で作り出される為、プライムターゲットエリアが重要ということなのです。

優れたFWはプライムターゲットエリアで仕事が出来る

 上記の通りサッカーの得点においてはプライムターゲットエリアを意図的に使うことが非常に重要です。C・ロナウドやメッシのようにどこからでもシュートを決められるのは素晴らしいことですが、年間を通して安定して得点を重ねるにはより可能性の高いシュートを打つことが重要であり、試合をよく見ると彼らもまた出来る限りプライムターゲットエリアでシュートを打てるよう努力しているのが分かります。
特に中長距離砲を持たないことが多い日本人FWはこの能力を重視していることが多いです。実際近年の日本人得点王を見ても大久保嘉人や佐藤寿人、小林悠、前田大然とプライムターゲットエリアへの侵入(=シュートからの逆算)に優れた選手が非常に多く、その重要性が分かります。中でも小林悠と前田大然はその傾向が特に顕著ですね。彼らはキック精度が特別に高いわけではなく、実際ミドルシュートや角度の無い位置からのテクニカルなシュートは殆どありません。1つずつ得点を見返してもほぼ全てのゴールがプライムターゲットエリア付近からのゴールで、シュート技術よりもプライムターゲットエリアへの侵入に優れた選手であると言えるでしょう。近年は得点力のあるMF・DFも増えてきましたが、彼らをFWで起用しても安定して得点を重ねることは出来ません。得点王を取るようなFWとそれ以外の選手との最も大きな違いを生んでいるのが、プライムターゲットエリアへ侵入する能力ということですね。

『得点力』をプライムターゲットエリアに絡めて考える

 得点力を単純な式にすると「決定機数✕決定力」となります。当たり前のことですが、決定機数が多い程得点する機会が増え、決定力が上がる程に機会をモノにする確率が上がるということですね。では決定力はシュート技術やメンタルであるとして、決定機数はどう考えればいいのでしょうか。ここでプライムターゲットエリアがポイントになります。
例外はありますが所謂『決定機』は「プライムターゲットエリアでのシュート機会」とほぼ同じ意味になります。先程は前田大然や小林悠といった個人名を挙げて簡単なシュートを打つ機会を増やしているのが得点量産のポイントだと書きましたがチームとしても同じことが言え、得点力不足について戦術的に考えるのであればプライムターゲットエリア内でのシュート数についてクローズアップすることが重要と言えるでしょう。残念ながら現在のところ主要スタッツにそれを示すデータはありませんが、チームの攻撃戦術について深く考える為にはこのデータが不可欠であり、DAZN等でも今後の対応が期待されます。
プライムターゲットエリアでシュートを打つことの重要性が特に分かりやすいのがセットプレイですね。セットプレイにおける「良いボール」の定義を聞く機会はあまり無いかと思いますが、プライムターゲットエリアという言葉を使えば非常にシンプルにこれを示すことが出来ます。
「プライムターゲットエリア内にGKが触れないボールを蹴る」
これだけです。キッカーもレシーバーもこれを意識するだけで格段にゴールに迫れるようになります。
「いや、そうは言っても言葉だけでキックの精度が上がるわけじゃない」
そう思う方もいるでしょう。しかし逆に言えば、 セットプレイに限らずキッカーの実力的に「プライムターゲットエリア内にGKが触れないボールを蹴る」ことが不可能な位置では直接ゴール前にボールを入れるべきではないのです。可能性の低いセンタリングやラストパスで攻撃が終わってしまうのであれば、もうひと手間かけてプライムターゲットエリアにボールを入れる方法を考えなければなりません。それが攻撃戦術を考えるということです。

守備側から見たプライムターゲットエリア

 プライムターゲットエリアでの守備はほぼシュートを防ぐ以外にありません。この位置でコースを空けてしまえば即失点に繋がるので、出来る限り相手より先にボールに触る、それが無理ならシュートコースを埋めることが何より優先されます。ボールに触れるときは出来る限り遠くに飛ばしたいところですが、大抵の場合はギリギリのパスカットやシュートブロックなのでその余裕は無いでしょう。他のエリアでは出来れば避けたいCKへのリスク回避もこのエリアであれば十分合格点です。とにかく、今そこにあるピンチから逃げることを考えるようにしましょう。また、プライムターゲットエリアではGKとの連携が非常に大切になります。GKがキャッチすればその時点で相手の攻撃を終了させることが出来るので、GKの近くにこぼれたりボールが頭より高く上がった時は特にGKとFPで声を掛け合い、お見合いや衝突を避けるようにしましょう。
ここではテーマであるプライムターゲットエリアでの守備について書きましたが、ここに至ってしまうと失点するか否かはほぼ個人の問題になってしまいます。チームとして戦術を組む時にはプライムターゲットエリアに入れさせない、プライムターゲットエリアで相手に触らせない守備を目指して守備戦術を構築するようにしましょう。

言葉を知るだけで変わることもある

 ここまでプライムターゲットエリアについて長々と書いてきましたがいかがだったでしょうか。あまり聞かない言葉かもしれませんが、この言葉を知っているだけでサッカーにおけるゴールへの道筋の考え方が少し変わったのではないかと思います。近年は戦術分析の番組も増え、バイタルエリアや5レーン、ポケット、ハーフゾーンといった言葉を聞く機会も増えてきましたが、これらは全てプライムターゲットエリアに侵入する方法を考える為の言葉です。この記事が一度攻撃の目的と攻撃戦術の目標について改めて立ち返る機会となり、サッカーにおける戦術的思考の助けになっていれば幸いです。

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