練習を読み解く(湘南ベルマーレ:2023/1/25)
今回は湘南ベルマーレの練習を覗いてみます。湘南のキャンプ動画は基本的に選手の自撮りインタビューがメインなので練習は細切れで中々採用出来そうな動画が無かったのですが、この回は1度通して観てすぐに「この動画は絶対記事にしよう」と決めたくらいの内容でした。良い練習をしていると感じましたし、キャンプ序盤に求められる課題提起がいい形で行えています。また、監督の選択によって複数の成長ルートが見えるので今後も追っていきたいと思わせる内容でした。
サーキットでのボールタッチ[1:22]
サーキットトレーニングの要素を入れていますが、強度からしてステップワークに重きを置いたウォーミングアップにボールタッチを入れているような練習かと思います。途中で内容が変わっており、同じセットアップで複数のメニューを消化して効率化を図ろうという工夫が見えますね。どちらのメニューも最後のボールタッチ寸前のストップが肝要で、前後左右に重心移動を強要するステップワークの後、停止と同時に重心をフラットな位置に戻せないとボールタッチを正確に行えません。
シンプルですが必要なステップワークが一通り入っており、コレは学生サッカー等の指導者も真似しやすいと思います。
6vs6 4ゴールゲーム(GK入り)[2:11]
4ゴールゲームは割とメジャーなトレーニングですが、この練習は何を意図しているかが非常に重要です。当たり前ですが試合でゴールは中心に1つだけですがから、このゲームはゴールではない別の場所を切り取っているということになります。練習内容も出てくる課題やポイントも非常に良いものがあるので、この練習は少し丁寧に掘り下げましょう。
「GK入り」から見える意図
まず気になるのが「GK入り」というところですね。パス回しに参加していますし、ロングボールをキャッチするシーンもあります。従って切り取っているのはDFライン付近となるので、「DFラインでボールを動かし、最終的にサイドもしくはハーフゾーンで縦パスを入れる」ということがゴールなのだと思いました。つまりこの練習はビルドアップを主目的にしているのではと考えられます。
また、GKによるロングボールのキャッチをOKとしていることから、ラフなロングボールでの展開をヨシとしていないのではないでしょうか。自陣ゴール前からのスタートな上に奪われればゴールが2つあり簡単に失点してしまうことから、特にDFはロングボール等で出来るだけ手っ取り早くゴールからボールを遠ざけたいと思うでしょう。しかしこの練習ではそれを意図的に阻害し、繋ぐことを要求してるように見えます。
それから去年正GKを務めた谷は足元の技術がまだ発展途上でしたが、今季加入のボムグンはビルドアップにも加われるという評判です。こういった練習にGKを積極的に参加させFPとの信頼関係が出来れば、今季の湘南は昨季まで見られなかったビルドアップが出来るようになるという期待感もありますね。GKがビルドアップに加われば3CBのうち1枚が高い位置を取るという選択も出来るのでアンカーの負荷が減るはずですし、チーム全体への相乗効果が期待出来ます。
気になるタッチ数
この練習を見ていてまず気になるのがタッチ数ですね。ルールとしてはタッチ制限無しですが無駄なタッチが目立ち、次の2種類のパターンが散見されます。
○止める位置が定まっていなくても次のタッチで修正すればいいと考えている
○持ちすぎてパスを出すタイミングが遅れてしまっている
どちらも開幕までに修正しておきたいポイントですね。特にプレス強度の高い相手にそれをやってしまうと低い位置で奪われてショートカウンターを浴びることになります。逆に言えば昨季舘や杉岡がそういうシーンから失点に繋がるプレイを犯してしまったことを重要視し、首脳陣はこれの修正をこのキャンプのキーセンテンスと考えているのかもしれません。
この練習メニューを上手くやるのなら
この練習メニューでより円滑にボールを動かせるようになるには、タッチ数制限を入れるのが良いでしょう。最初は3タッチ以内、最終的に2タッチ以内でプレイ出来るように慣れば先程の課題2つは解消に向かうはずです。特に1つ目の課題はボールを受ける前に次のプレイ選択肢を複数持つということが重要になりますし、これが出来るようになればDFラインのミスからショートカウンターでの失点をするようなことはかなり減るはずです。
慢性的なチームの課題
先程タッチ数制限が有効という話をしましたが、安易にそれをやっていいものかと思う部分もあります。何故なら湘南の慢性的な課題として「プレイキャンセルの不得手」があるからです。前へ、前へという湘南の戦い方と反する為仕方ないことではありますし浮島監督以降徐々に改善傾向にはあるものの、未だ尚無謀な縦パスや密集へ突っ込んでしまうシーンが消えているわけではなく、首脳陣からすると継続的な課題として出来る限り潰していきたいところでしょう。実際昨季この技術に長けた中野がレギュラーに定着して以降攻撃内容の改善は顕著でしたし、このゲームでも畑あたりは上手くキャンセル出来るシーンが見られ成長を感じます。このように課題であり改善も見えていることに対し、反するタッチ制限を入れていいものか。私が監督ならちょっと迷う気がしますね。
同時に鍛えるのが難しい課題に対する監督の選択は
以上の通りタッチ数を減らすことと適切なキャンセルを同時に身に着けるのは難しい為に、監督としてはどちらを優先するか一旦決断する必要があるでしょう。まだ開幕までは時間があるので紅白戦や練習試合を重ねつつ両方を一定のレベルまで上げることも不可能ではありませんが、両方中途半端な完成度で開幕を迎えるのが一番怖いので、少なくとも現時点でどちらが優先になるのかについては選択することになると思います。次回以降の練習内容や開幕直後の試合内容で個人的に注目したいポイントです。
本当に良い練習
以上の通り昨季から継続の課題を表出させ、今後の方向性を考えることに繋がるとても良い練習だと思いました。特に先程名前を上げた舘と杉岡にとって課題の消化に繋がる非常に重要なメニューになりますし、元々それが得意でない大岩や大野にとっても成長に繋がる可能性を感じます。畑にとっても「この練習ではDF陣よりしっかり出来る、なら試合に出るには何が必要なのか」と考えるきっかけになるでしょうし、キャンセルの上手さもダイレクトプレイも上手い阿部と中野はチーム全体にとって良いお手本です。これらの理由から、今この時期に湘南が行う練習として非常に納得感のある練習メニューだと感じました。
ステップワーク[6:30]
メニューそのものは特別なものではありませんが、このタイミングに入っているのが少し不思議でした。動画の順序が入れ替わっている可能性も考えましたが天候の変化からそれは無さそうですね。と書いたところで思ったのですが、雪が降って凄く寒そうなので一旦身体を温め直したのかもしれません。内容を見ても鍛える意図があるにしてはメニューもセットアップも軽すぎますしね。
ゴールキーパー練習[6:52]
実戦的なセービングと飛び出しの練習です。試合でよく見るシーンを上手く切り取っている良い練習ですね。寒い中で出来るだけ動きのある練習をするという意図もあるでしょうか。上記のステップワークでは確認出来ませんでしたが、後述のラインゴールではGKが不在なので、おそらく4ゴールゲームの後GKは別メニューだったと思われます。
3vs2ラインゴール[7:35]
先程の4ゴールゲームと同じくどこを切り取っているのかが問題です。ラインゴールということは敵陣ではないので、これもDF陣の練習でしょう。おそらく囲んで奪ったスポット的な数的優位でのポジティブトランジションを意識しているのだと思います。自陣でボールを奪い、周囲の味方を素早く使って前にボールを運び出す練習でしょう。従ってボールロストは絶対にNGなので、レガテーを仕掛けてスピードを上げすぎたり無理のあるパスや甘いパスをカットされるのも無しですね。
この練習でも4ゴールゲームと同じ課題、同じ狙いを感じます。
最後に
最初に書いた通り湘南の公開動画は記事に出来そうな回が少ないのですが、この日は内容が本当に濃かったので筆も乗りましたし、記事に出来て良かったなと感じます。私にとっても今回のような濃度で練習内容を掘り下げたくて始めた企画なので、次回以降も良い練習動画を探し、濃い記事を書けるよう頑張ります。
あと、阿部ちゃんと池田の会話は流石関西人というか、テンポが良くて面白いですね。ずっと聴いていられます。