練習を読み解く(鹿島アントラーズ:2023/1/20)
今回は鹿島アントラーズの練習を追ってみます。鹿島はJ2クラブとのトレーニングマッチ3連敗というネガティブな話題が聞こえており、個人的に状況が気になっていました。また、岩政監督は言葉選びもコメントの構成も巧みなので対外向けのコメントから読み取れることはたかが知れていますし、限定された内容だとしても練習を覗く価値があるかなと思いました。
正直言って今回の記事は書き辛いのですが、その理由がそのまま鹿島の連敗に対する考察と直結するので、後述することとします。
ウォーミングアップ[0:26]
鹿島のウォーミングアップはボールを使わない時間をしっかり取るのが特徴です。ジョギングや動的ストレッチ、マットを使ったトレーニング等、川崎Fや湘南の練習では見掛けなかった内容が見受けられます。このあたりはフィジカルコーチの考え方によるのでしょう。
8vs3ロンド[1:30]
あまり見ない人数のロンドです(一般的にDFが3人であれば5vs3がメジャーだと思います)。外枠上に7人、中央に1人で3人のDFを相手にボールを動かしています。あまり上手くいっているようには見えないのが正直なところで、人数が多くグリッドも広い割にDFに引っ掛けてしまっています。一般的なロンドより広いグリッドが気になるのですが、もしかしたら最初からこの広さだったのではなく、もっと狭いグリッドでスタートしたもののパスが回らなかった為に広げたのかもしれません。
それから鹿島の多くの練習に共通するのですが、良くも悪くも「遊び」が見えないんですよね。真剣で強度が高い反面緩急の緩があまり無く、他のチームではもっと笑顔が見えるロンドでも極端なくらい真剣なのが表情や声色から伝わります。
6vs6+GK ゲームトレーニング[2:00]
引きの映像が無いので人数は見える範囲での推測です。このゲームも強度が高く、良くも悪くも真剣です。ファウルギリギリのプレイも目立ちますし、笑顔はほとんど無く声掛けも力強いものが大半です。戦術的な内容はこの角度だとあまり見えませんが、気になるのはこれまた良くも悪くもプレイスピードが速いということですね。真剣さの副産物なのかもしれませんが、プレスだけでなくドリブルや球離れも必要以上に速いシーンが散見されます。プレイスピードは上限が高いに越したことはありませんが、スピードが上がれば上がる程に精度は反比例で下がりますし、タメを作れなくなります。例えばこのゲームで一番良いシュートシーンは[2:17]のシーンだと思うのですが、ここではあえて2回プレイスピードを遅くすることでタメをつくっていますね。今の鹿島はこういう時間を作り、使うシーンがこの練習を通して、またトレーニングマッチの動画の中でも極端に少なく見えました。
U字シュート[4:45]
メジャーなシュート練習ですね。先程までと全く空気が違うので、おそらく個人練習かと思います。
練習から予想する鹿島連敗の理由
冒頭に記載した「書き辛い」理由というのは、鹿島の練習は毎日同じ感想しか出てこなかったので、「複数の選択肢から一番書きやすい動画を探す」という他のチームと同じアプローチが出来なかったからです。引きの映像が少なく意図を読み取りやすい練習が少ないのも理由ですが、キャンプ中の対人練習はどれも速く・強く・激しくという印象に至ってしまいます。先程も書いた通り良くも悪くもとにかく真剣でプレス強度はかなりのものですが、その反面必要以上にプレイスピードが早くなってしまうことでミスを誘発しますし、ドリブルの速度が上がると精度だけでなくよりボールを見ることになるので視野も狭くなります。こうして視野が狭くなることで相手との駆け引きにキャパシティを使えなくなって「遊び」が無くなっており、より相手の逆をつけないような局面が出てくるわけです。
「良くも悪くも強度が高く真剣」ということはこうして繋がっており、私はこのあたりがトレーニングマッチの連敗に繋がっているのではないかと考えました。
ただ勘違いして欲しくないのが、本当に「良くも悪くも」なんですよ。表裏一体といえどこれだけ真剣に取り組むチームをまとめ上げている岩政監督のマネージメントは十分特筆に値すると思います。現状はあくまで現状であり、手腕の評価は開幕後とすべきでしょう。
さてここで一応トレーニングマッチも確認したので印象を書いておこうと思います。鹿島の公式動画なので鹿島の見せ場以外がカットされていますし見辛い真横からのアングルにより情報はかなり限られていますので、あくまで見える範囲での印象です。
トレーニングマッチ(vs徳島)
まず最初の徳島戦(2-0・1-2・0-4)は気にする必要無いと思います。前日の練習もかなりの強度だったので、あえて疲労状態で挑んだのであろうと考えられますし、主力が多かったと思われる最初の1本は勝利しています。
トレーニングマッチ(vs岡山)
次が岡山戦(0-1・0-4・1-0)。前日は軽めの練習だったようですし、監督としてもこの試合は勝って雑音を抑えたかったのが本音ではないかと思います。主力組が出ていたと思われる1本目も無得点なのは関係者からすれば気になるでしょうね。通して見てもやはり急いでいるという印象のプレイが多いですね。ロングボールも目立つので、現状ビルドアップには着手していないのかもしれません。他に目立ったのはオーバーラップです。クロスからのシュート練習にも時間を費やしているようなので、今季はFW陣の強さを活かすオーバーラップからのクロスというパターンを多用するのでしょうか。その場合オーバーラップよりカットインの方が得意な逆足LSBの安西をどう活用していくのかが個人的には気になるところです。
トレーニングマッチ(vs町田)
最後に町田戦です(0-0・0-0・0-2・0-1)。当然ながら無得点というのが気になりますよね。攻撃陣の顔ぶれからするとあまりに寂しい数字です。攻撃が単調という指摘を見掛けましたが、ロングボール多用でオーバーラップ以外のパターンが見えてこない現状ではそう指摘されるのも仕方ないでしょう。
鹿島の選手達は、練習通りに出来ている
あくまで公開されている動画から感じる範囲の話ではありますが、結局のところ良くも悪くも練習通りに出来ているというのが練習動画とトレーニングマッチを覗いての感想でした。もし鹿島が「強く!速く!激しく!」をテーマにキャンプに取り組んでいるのであればその成果はバッチリだと言えますし、クロスを中心とした攻撃も形になっています。連日の練習を見ていてもゲームトレーニングは狭めでゴール前に絞った内容でしたから、組み立ての物足りなさも想定内でしょう。そう考えればトレーニングマッチの連敗は現状の鹿島が良くないということではなく、開幕までに消化すべき課題がハッキリあるということです。
従ってもし岩政監督が今の戦い方のまっすぐ延長線上にあるチームで今季を戦うつもりなのであれば、不安は拭えないでしょう。
逆に現状のチームが想定通りでこの後に別のアプローチで肉付けしていくプロットが用意されていて、それが開幕までに間に合うのであればかなり強いチームになる可能性もあります。
現時点でも練習通り出来ているように、適切なタスクを与え練習を重ねればそれをピッチで表現出来るスタッフは十分に揃っています。例えば先程問題点として例に挙げた組み立て局面での貢献もタメを作ることも、FWの鈴木と知念はリーグ上位と言えるくらい能力が高い選手です。つまり鹿島アントラーズは開幕までの3週間、文字通り岩政監督の手腕に委ねられたと言えるのではないでしょうか。