サッカーの練習に素走りは不要なのか

 今回も頂いた質問への回答を再編集したものになります。

頂いた質問

 練習方法についての質問です。私は、体力トレーニングとして「坂道ダッシュ○本」や「グラウンド○往復」といった、いわゆる「素走り」をすることは効率が悪く、試合形式でボールを扱いながら走った方が効率もよく実践にも役に立つと考えています。しかし強豪校と言われる高校では今も尚素走りが行われています。これにはなにか理由があるのでしょうか。そもそも、私の認識は間違っているのでしょうか。

はじめに

 結論から言うと、「場合と状況による」となります。素走りは有効・非効率という二元論ではなく、なぜ非効率なのか、どういう時に有効なのかという部分にもう少しフォーカスして考えてみましょう。
ちなみに本件に限らず最近極端な二元論が多く見られますが、世の中の大半のことは白か黒かの2つに分けられません。SNSやyoutubeのタイトルではより極端な言い方をした方が目を引くので例えば本件なら「サッカーに素走りがいらないヤバすぎる理由」とか「時代遅れの素走りを捨てたチームが革命を起こす」みたいなタイトルが目に付きますね。ですがこういったタイトルはあくまで目を引く、再生数やクリック数を稼ぐためのものであって、本当に視聴者に有益な情報を提供したいというものはほんの一握りであるということを忘れないでください。勿論極端な題名の動画や文章にも有用なものはあるので、まるごと信じたり嘘と決めつけるのではなく、自身の中で吟味し選別する癖をつけましょう。

選手による違い

 先程の「場合と状況」のうち、最も考えるべきはコレかと思います。極論を言えば、サッカーを始めたばかりの小学生に厳しい素走りをさせれば効率が悪いどころか、サッカーが嫌いになって辞めてしまう可能性すらあるでしょう。しかし競争率が高く極めてモチベーションの高い名門チームなら厳しい素走りも高いモチベーションでこなし、利点のみを享受することが可能です。多くのチームはこの2つの極論の中間に位置する訳なので、「場合と状況による」という訳です。

どんな時に素走りが非効率になるのか

 では「素走りは非効率」というのはどこから出てきたのでしょう。素走りが非効率と言われることのある理由はおそらく2つです。
1つはモチベーションを保つのが難しいという問題ですね。トレーニングはどんな内容でも一定のモチベーションがあることが上達の前提です。しかしボールを使わないトレーニングはどうしても面白さに欠け、特に素走りは辛く苦しくなりがちなのでモチベーションを保つのが難しくなります。よって前述の通り一定の年齢とモチベーションの根拠があれば有効性を増す反面、そのハードルは決して低くありません。
そしてもう1つの理由が、「試合で使うフィジカルは試合で鍛えられる」という考え方です。筋肉は使った場所が鍛えられるのだから、試合で使う筋肉は試合をすれば自然と鍛えられるということですね。

「試合で使えないフィジカル」は無駄なのか

 確かにゲームあるいはゲーム形式の練習で鍛えたフィジカルは、全てゲームで使えるものでしょう。では、ゲームで使わないフィジカルは無駄ということになるのでしょうか。答えはNoです。
皆さんは「野球チームがサッカーをする」という話を聞いたことがありませんか。冬になると中学・高校の野球部がサッカーをしたり、プロ野球でも秋季キャンプでサッカーをすることがあります。これは「オフシーズントレーニング」といい、普段競技では使わない筋肉に刺激を入れることで身体のバランスを整え、怪我し辛い身体を作っているのです。つまり素走りに限らず、競技で使用機会の少ない筋肉を鍛えることにはきちんと意味があり、全く無駄にはなりません。勿論シーズン中は競技で使用する筋肉を中心に鍛えますがそれにも素走りやウェイトが有効なことは多くありますし、試合で鍛えられるフィジカルが必要なフィジカルの全てではないというのは間違い無いでしょう。

ゲーム形式で鍛え辛いフィジカルとは

 それから、ゲームで使うだけでは鍛え辛いフィジカルというのもあります。

1つがシンプルに使用機会が少ないもの。例えばスローインで使う胸筋や肩周り等を試合だけで鍛えるのは難しいでしょう。

それから瞬発系の能力も試合中は鍛えにくいですね。一瞬の最大火力を要求されるキック力やスピード等は使用頻度で言えば少なくありませんが、ゲーム中はその全てが自重による負荷となる為、「鍛える」という意味では限界があります。これはやはりゲーム以外で別途トレーニングを積む必要があるでしょう。

更に見逃されやすいものとして、利き手・利き足の問題もあります。サッカーでは特に利き足が重要になり、利き足の方が逆足よりも使用機会が多くなり鍛え方も偏りやすいというのは感覚的に理解しやすいかと思いますが、それだけではありません。利き手・利き足があるのと同じように、サッカーでは利きヘディングや利きジャンプ、利き着地、利きスタート等、多くの「利き」があります。この利き○○という言葉は私が勝手に考えたものですが、実際問題として利き足がある限り得意な向きのヘディングや踏み切り足は当然あるわけで、「鍛える」という視点で見ればその全てで偏りが発生する訳です。これらを限りなく平等に近くなるよう鍛えられるのは素走りやウェイトトレーニングを採用する大きな理由となります。

結論

 以上より結論は「素走りは有効。ただし、高いモチベーションで取り組むことが前提となる」となります。つまりプロや大学生、あるいは名門高校のような環境では高いモチベーションが恒常的に維持されている為に負荷の高い素走りが成立する反面、小学生年代は「一生続けたいと思うくらいサッカーを好きになってもらう」というモチベーションを作ることそのものが目的となる為、素走りが有効な状況は限られるということになりますね。
これらの参考になってくれればと考え、このホームページでは各メニューに対象年齢や指導時のポイントを記載するようにしています。高いモチベーションのチームを作ることもモチベーションに合ったフィジカルトレーニングのメニューを組むことも簡単ではありませんが、これまで積み上げてきた各サッカー練習メニューの記事がその一助になれば幸いです。

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