練習を読み解く(ヴィッセル神戸:2023/01/18)

 今回はヴィッセル神戸のキャンプ動画を見ていこうと思います。神戸は複数日の練習をまとめて動画化しているのが特徴で、他のチームの練習動画よりボリューミーですね。

【沖縄キャンプDAY5~8】充実したトレーニング!そして1.17はチームで黙祷

ストレッチ[0:48]

 全体練習前のストレッチをしつつインタビューが入っています。リラックスムードですね。

ウォーミングアップ[1:29]

 動的ストレッチ(所謂ブラジル体操)から全体練習がスタート。以降はボールを使用する運動も交えながら徐々にペースを上げています。

ゴールキーパー練習①[2:07]

 一瞬だけGK練習が移ります。キックからダイレクトでリターンされたライナー性のボールを両手でキャッチする基礎的な練習ですね。

4vs2ロンド[2:17]

 最もメジャーなロンドです。長方形のグリッドを使用しており、それをフルに使うというよりは正方形を維持しつつ移動しながらボールを動かしています。この練習で目立つのはやはりイニエスタで、やはり懐の深さというか、余裕を持ってプレイしているのがよく分かります。札幌の西のyoutubeで川崎Fの家長が「試合だと思っていない」と表現していましたが、プレイスピードの上限が極めて速く「いざとなれば」使えるプレイの幅が広いからこそ必要以上にスピードを上げずにプレイ出来るのでしょう。速いプレイの方が注目されがちですが、ゆっくりプレイすると相手がよく見えて駆け引きの幅が広がりますしプレイ精度も上がるので、幅広いプレイスピードに対応出来ることが大切だということをイニエスタはこのようなメジャーなトレーニング1つからでも教えてくれます。

6vs6 ラインゴールゲーム[2:45]

 ラインゴールでのゲームです。GKは最後方エリアにおり動画内で手を使っていないので、使用禁止もしくはハイボール限定と思われます。一見するとGKが不可欠には見えない練習にもGKが入っているのは、GKのパス技術を重要視しているということでしょう。全体としてパススピードは特別速くありませんが遅いのではなく適切という印象で、イニエスタがよくやるようなターンが短い動画でも数度あるのはやはり彼の影響力が大きいのでしょうか。

クロスシュート[3:10]

 DFを入れてクロスからのシュート練習です。特別手の込んだ内容ではありませんが、触れておきたいのが雰囲気の良さですね。日本のチームだとゴール後に照れるような仕草をする選手が多いのですが、神戸では練習でもゴールが決まった時にガッツポーズやハイタッチが出ていて非常に開放的な印象を受けます。ハイレベルな外国人選手を多く抱えるチーム構成や外国人監督による指導を経て根付いたものなのでしょうか。

シュート練習[3:38]

 ゴール横からゴロのボールを供給するダイレクトシュートの練習です。先程のクロスシュートと動揺にハイタッチが見られます。何かを意識してではなく、チームの文化として根付いているのでしょう。

個人練習(トレーニングルーム)[4:05]

 全体練習を締めた後の個人練習です。フィジカルコーチが帯同し、エアロバイクやメディシンボールを使用してのトレーニングが行われています。昨日記事にした同時期の鳥栖ではこういった内容を全体練習に取り入れているのが特徴的でしたが、サッカーのプロチームはこのように個々で取り組む方が一般的だと思います。

4vs2ロンド[5:41]

 ここから翌日です。前日と同じメニューですが、この日はビブスを着用しており守備強度も高めです。より守備にフォーカスした設定だったのでしょうか。

ゴールキーパー練習②[5:58]

 ごく短時間ですが、踏み出しからのキャッチング練習です。単純に見えますがそれにしては丁寧な指導が入っているので、意図や意識について詳しく知りたいですね。

4vs4+3[5:13]

 長手方向の対面に各1人(白ビブス)、中心に1人のフリーマンを置いた4vs4です。フリーマンはダイレクト限定で、中の4人チームは端のフリーマンにボールを当ててダイレクトで受け取り、また逆サイドのフリーマンを目指します。これはフリーマンをFWに見立てて縦パス(くさび)からのサポートを意識付ける、3人目の動きの練習です。神戸には前線にボールの収まりがいい大迫や武藤がいるので、この練習はチーム戦術の入り口となるのではないかと思います。

クロスシュート[6:24]

 前日とは違い、DF無しでのクロスシュートです。ロングボールをサイドに供給し、シンプルにセンタリングを入れています。中はダイレクトにこだわらず、決めきることを大切にしているようですね。この練習でもGKに労いのハイタッチが映っており、メンタル面をより良く保とうという習慣が徹底されています。普通にやっていますが、ここまでやるチームは中々無いのではと思います。

ウォーミングアップ[10:14]

 ここからまた日付が変わります。この日はミニハードルを用いた動的ストレッチにボールタッチを絡めて身体を温めていますね。川崎F等ほかチームの練習でも感じることですが、ウォーミングアップの形を毎日変えているのが複数日を同時に収録している神戸の練習動画だとよく分かります。ウォーミングアップは慣れが悪い方に傾きやすいので、ここのバリエーションがどれだけあるかというのは監督・コーチ陣の腕の見せ所にもなりますね。

ゴールキーパー練習③[10:37]

 この練習は素晴らしい工夫ですね。マーカーコーンをゴールエリアのライン付近に撒き、意図的にイレギュラーバウンドを発生させてのセービング練習です。試合中はイレギュラーやディフレクションによりコースが変わることも多々ありますから、より実戦的な形でGKの反応を鍛えようという意図が見えるシンプルながらハイレベルな練習です。特別な道具を使ってはいないので、育成年代や学生にも取り入れられる練習です。

4vs2ロンド[11:02

 連日のロンドです。この日は正方形グリッド、ダイレクト限定でボールを回しています。多少バリエーションを変えつつも毎日取り組んでいることから、神戸がロンドの基本を重要視していることが伝わります。

3vs2[11:27]

 守備2人+GKに対し攻撃3人でゴールを目指すトレーニングです。この練習では攻撃終了後に3人のうち2人が守備に入っており、トランジションや前線からの守備も意識しているように見えます。この練習では攻撃側の数的優位でカウンターを想定しているので、守備側はディレイを、攻撃側は出来るだけ早くゴールへ迫ることが求められます。
それにしてもイニエスタが笑ってしまう程に上手いですね。

シュート練習[12:11]

 オフェンス側3人でのシュート練習です。神戸のシュート練習はどれも、難易度を上げることより決めきることを大切にしているように感じます。技術的な部分よりも、成功体験の積み重ねを大切にしているということでしょうか。川崎Fのシュート練習はゴール前に壁を配置していたこともあったので、指導者の考え方が違うということなのでしょう。

ウォーミングアップ[13:09]

 ここから2部練習の午後の部ですかね。マーカーコーンを使用したステップやボールを使ったトレーニングで身体を温め直しています。GKも別メニューで身体を温めています。

6vs6 ラインゴールゲーム[13:29]

 前述の内容と重複するので割愛します。

クロスシュート[13:55]

 連日行っているクロスシュートですが、この日は中央に3人、サイドに2人+サーバー、DF無しという設定でした。マイナーチェンジはありますが、連日クロスからのシュートを徹底しています。4vs2ロンドの様な狭いパス回しと広いサイドを使い分ける攻撃の構築をイメージしているのでしょうか。ここにラインゴールで訓練しているビルドアップを組み合わせると、神戸のコンセプトがおぼろげながらも見えてきますね。

ウォーミングアップ[17:00]

 ここから更に翌日です。ラン・ジャンプ&ハイタッチの合間にコーチの声がけでグループを作るゲーム、ミニハードルやポールを用いたステップワークで身体を温めています。ここまで毎日、毎練習違うウォーミングアップを用意していますね。これだけでも選手からすると新鮮味があり、マンネリ化と集中力の欠如による怪我の防止に繋がります。

5vs2ロンド[17:33]

 この日のロンドは人数を増やして5人×ダイレクト限定でパスを回しています。中央には立たず、5人全員が外周ですね。毎度ですが、ロンドでのイニエスタはあまりに別格です。

ゴールキーパー練習④[18:14]

 シンプルなハイボールのキャッチです。「出来るだけ高い位置で確実にキャッチする」と言うだけなら簡単なのですが、ボールの軌道把握とジャンプのタイミング、キャッチング技術、運動能力と求められることが多く、GKの技量差がかなり出る練習でもあります。実践でもハイボールの処理技術はかなり差が出るので、重要な練習です。

7vs7+2+GK ゲームトレーニング[18:35]

 引きのカメラが無いので人数は目算です。狭めのコートで7vs7に2人のフリーマンとゴールキーパーを入れたゲームトレーニングです。2人のフリーマンにより攻撃側が常に数的優位となるので、攻撃側は素早くフリーを見つけること、守備側はネガティブトランジションを素早くして相手にフリーマンを使わせないことが重要になります。実際ここまで見てきた神戸の練習の中では最も守備強度が高く、そこにコンセプトを置いているのは間違い無いでしょう。
象徴的なのが[19:10]齊藤未月のプレイで、素早いプレスからボールを奪い、ダイレクトでシュートを決めています。ロンドとラインゴールから想定されるビルドアップからの遅攻とは全く別の、ハイプレスからの速攻を意識したゲームとなっており、チームとして戦術の幅を広げようという意図が伝わります。

最後に

 複数日の練習が掲載されていることで、個々の練習は短いものの全体の流れや何を重視しているのかが伝わってくる動画でした。その分4日分の練習を見ていくのは結構大変ですけどね。ただそれによって全体での戦術練習こそ無い中でも神戸の目指す形が透けて見えるような記事を書けたと思うので、キャンプ後半の動画も注視したいなと思いました。
最後に、イニエスタは本当に上手いです。この練習風景が動画として今後残るというだけでも、日本サッカー界にとってイニエスタがJでプレイしたという事実は大きな財産になると思います。

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